本研究の目的は、組織的不正(organizational wrongdoing)がなぜなくならないのかを理論的・経験的に明らかにすることである。この目的に際して、本研究では制度派組織論や違法市場研究の知見を活用し、制度を通じて組織的不正が誘発される様子を事例研究によって明らかにしてきた。令和2年度までは、組織的不正研究の理論的検討と経験的検討を行った。理論的検討としては、組織的不正研究を制度派組織論に根ざしながら展開するパルマー(D. Palmer)の研究に着目し、彼が「制度が組織的不正を誘発する」と言及する理論的根拠を明らかにした。続いて令和3年度では、このような理論的検討と経験的検討を組織的不正研究の類似分野である組織不祥事研究に援用すべく、(制度派組織論や違法市場研究のメタ理論に位置づけられる)構築主義の立場から「不祥事」の分析を行った。そして令和4年度では、これまでに行ってきた組織的不正研究および組織不祥事研究の集大成として「数値化された制度が誘発する組織不正」と題した学会報告や『社会問題化する組織不祥事:構築主義と調査可能性』と題した書籍を公刊した。組織的不正については、燃費不正に限らず数値化された制度が現場に対して与える業界や職務において注視しなければならないことを報告した。また、組織不祥事については、組織不祥事が客観的な「状態」というよりも利害をもつ人々によって作られることを明らかにした。
|