近年のわが国では、自然災害等の突発的なリスクが頻発している。また、後継者不在と経営者の高齢化が進展する中小企業の一部は、被災を契機に廃業を余儀なくされている。先行研究ではこれまで、BCPを中心とした事業継続への取り組みと、後継者問題に対処する取り組みは、個別に論じられてきたが、こうした状況下、長期的な事業継続のマネジメントを進めていく上で、両者を切り離して論じることは難しいと思われる。 以上の問題意識を背景に、西日本豪雨の被災地中小企業を対象としたアンケート調査とインタビュー調査を通じて、リーダー不在の事態への対処等、自然災害からの復興プロセスにおける「事業承継計画」の有効性と、その活用の促進に向けた課題を明らかにすることが、本研究の課題であった。 本研究の成果は、以下の通りである。第一に、三つの仮説について、アンケート調査の統計分析を行った結果、「事業承継計画」や「BCP」と後継者の貢献度や事業継続との間には関連性は見いだせないことが示唆された。第二に、西日本豪雨とCOVID-19の多重災害下にある中小企業にとって、後者の事態への対処がより強く意識され、インタビュー調査では、十分な情報を入手することができなかった。第三に、副次的成果として、経営者のリーダーシップに依存しがちな被災中小企業の事業継続のカギは「経営者の健康」にあること、他方で、自身の健康の増進によって引退時期が遅延し、経営者の高齢化を亢進させるリスクが示唆された。
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