研究課題/領域番号 |
19K13805
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
落合 康裕 静岡県立大学, 経営情報学部, 教授 (70740679)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 創業家 / 正統性 / 経営承継 / ファミリービジネス / 業績優位性 / ガバナンス |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の上場企業における創業家の影響力や正統性を明らかにしようとするものである。近年、上場企業で創業家が経営に関与する 事案が増えている。創業家経営者が非創業家経営者から経営承継するケースも見られる。先行研究では、ファミリービジネスの影響力の行使の 根拠として、株式所有比率の多さが指摘されてきた。しかし、上記の経営現象は、 創業家の株式所有比率が希薄化した上場企業において生じ ている。なぜ、株式所有を前提としない創業家が経営への関与を維持し、次期経営者として選抜される正統性があるのか。本研究は、上場企業 の有価証券報告書のデータの分析や事例研究を交えて研究課題に答えていこうとするものである。 本研究の目的は、東証一部など上場企業における創業家の影響力や創業家出身者による経営承継の正統性の根拠を明らかにすることである。 学術的な意義は下記である。 第一に、所有権を前提としない創業家の影響力を説明する論理を提示することである。従来、株式所有比率が高い創業家の研究は存在する一 方、所有権を前提としない創業家の影響力の研究は見過ごされてきた。 第二に、創業家出身の経営者と非創業家出身の経営者との業績比較にかかわる実証分析を行うことである。創業家出身の経営者の方が一般企 業と比較して業績優位性の傾向が高ければ、創業家の正統性の根拠となりうる。 第三に、ファミリービジネスの多様性について議論を深められることである。先行研究では、ファミリービジネスの多様性や異質性を反映した比較研究は少ない。本研究は、ファミリービジネスを所有と経営に応じて、6種類に分けて考察し、区分別に経営行動の特徴を考察する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019度は、9月に日本経営学会において「上場ファミリービジネスの経営者在任期間と業績に関する研究」と題する報告をおこなった。本研究は、東証をはじめとする上場企業をファミリー企業と非ファミリー企業にわけて分析した。その結果、ファミリー企業において、総資産利益率と経営者在任期間における一定の相関関係を示したことであることを示した。 また、12月に事業承継学会において「上場ファミリービジネスの業績分析:経営者属性との関係を中心として」と題する報告をおこなった。本研究は、一部のファミリービジネス(経営には関与しないが株主として関与するファミリービジネス)では、機関投資家など大株主の存在を観測した。 2020年度は、3月に企業家研究フォーラム春季大会において「ファミリービジネス のガバナンスと企業家活動」と題する報告及びパネルディスカッションをおこなった。本研究の問題意識は、(1)なぜ創業家出身者が次期経営者として選抜される正統性があるのか、並びに(2)なぜ世代を超えて、創業家出身者による企業家活動が生み出されるのか、である。本研究では、ファミリービジネスにおける創業家出身者の経営者の輩出のメカニズムについての議論を深めることができた。また、本年度は、本研究課題や方法論について海外における先行研究の系譜に位置づける作業を行なった。 また、上記の研究成果の一部は、落合康裕著『事業承継の経営学:企業はいかに後継者を育成するか』(白桃書房、2019年)に収録された。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究推進方策は、以下三点を想定している。 第一に、前年度に引き続き、Quickアストラマネージャー(有価証券報告書の基礎データや大株主データなど)を活用することによって、ファミリービジネス区分「C」・「c」企業の創業家出身の経営者属性、並びに当該企業の株主構成や利害関係者について分析を行う。あわせて、ファミリービジネス区分ごとの各経営指標(収益性、安全性、流動性等)による業績比較分析を行う。 第二に、本研究によって析出された知見の国内並びに海外の学会での発信である。現在、日本経営学会全国大会、並びにAPFBS(Asia-Pacific Family Business Symposium)に応募(申請中)している。学会での議論を通じて、当該研究領域の研究者からフィードバックを受け研究を精緻化する予定である。 第三 に、 上記の学会報告をもとに、査読論文と書籍の執筆を行う。具体的には、本研究からの知見を『ファミリービジネス白書2021年度版(仮称)』として商業出版を行い、本研究の知見を研究者や実務家に対して広く発信することを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
作業の進捗上、データの取得などに関わる支払いが、次年度になってしまうため。
|