本年度の成果は、制度化が進んでいない段階における制度環境プレイヤーに関する理解を深めるための論点整理を行った点にある。 第1に、行政官の行動様式についてフリーライダー現象との関連からまとめた。行政官が外部者の成果や知見にフリーライドするという現象を手がかりとして、行政官の規範や考え方と、企業家の規範や考え方の違いがどう異なり、企業家がどのような問題に直面しているのかを考察した。引用を示さないという行動には目的合理的な説明、成員の性向や動機づけの違いによる説明の他に、公共財である情報生産に対する取り組み方が異なるという説明が可能である。公共財を私的財に近づける努力をすることで公共財生産に取り組む場合にはフリーライドは抑制すべき対象となるが、公共財を公共財のまま生産しようとする場合は、フリーライドは前提となり、自由な利活用できるメリットを追求することとなる。このような特徴があることから、政策形成過程における情報は非市場的な交換過程を経ることとなる。また、このような実践を通じて、市場的にしか入手できない情報は自然と扱われなくなるため、独特の偏りがでるものと予想される。 第2に、政治家が政策形成過程においてもたらす論点創出機能を、新事業に対する比較対象の設定という観点から考察している。あまりに新奇性の高い事業や社会問題は、それ単体でその解釈をすることが難しい。社会は、類似しており既存の何かと比較しながら参照する。このような比較対象は自然と形成されたり、社会運動上意図的に設定されることもある。このようなレトリックは、議論を促進させるため、反対する人を説得するため、あるいは仲間内での共感を集めるために使用される。政策形成プロセスの特に初期段階で政策の窓を開ける際にこのようなレトリックが多用される。
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