本研究では、企業の社会的責任(CSR)活動がもたらすソーシャル・キャピタルが組織パフォーマンスに対していかに正負の効果を持つのかを検証した。従来の研究では、CSRを通じたSCの正の効果、特に情報移転・学習に焦点が当てられており、SCの負の側面についてはほとんど論じられていなかったため本研究で明らかにすることを試みた。2019年度に行ったインタビュー調査では、CSR活動を通じたSCの蓄積による正の効果として、観察・学習や事業機会の獲得が挙げられた一方、負の効果としてネットワークによるしがらみや維持費用が確認された。また、これらの効果が通常のビジネス活動ではなく、CSR活動を通じて生じることを確認するための比較検討も行った。その後、これら発見の一般性を確かめるためのアンケート調査のリサーチデザインおよび調査手法を検討したが、新型コロナウイルス感染症の影響で、調査実施が未定となった。2020年度は移動制限のため、予定していた調査が実施できず、前年度のデータとモデルの再検討を行った。特にネットワークの特徴を考慮したモデルの検討を行った。分析手法やソフトウェアの操作習得、仮説構築のための文献渉猟も進めた。2021年度以降、移動制限が緩和されたため、まずはインタビュー調査を再開した。そこでは、ネットワークの密度や調査対象者の位置など、構造面を考慮したモデルに基づき調査を実施した。具体的には、ネットワークの中心と周辺に位置するアクター間でSC蓄積に違いが見られるとの仮説を立て、検証を行った。しかし、想定通りの結果が得られず、おそらく、サンプル企業のネットワーク特性や経営者の特性が要因と考えられ、追加調査を行う必要性が生じた。今年度は追加調査の実施やその分析を行い、学会報告や論文執筆で成果報告を行う予定であったが、学務において想定外のエフォートが発生してしまい成果報告には至らなかった。
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