研究実績の概要 |
2020年度においては、まず取締役会における意思決定に着目し、コーポレートガバナンス改革の下、独立社外取締役や女性の登用などの多様性がもたらすグループダイナミクスの変化、グループシンクを回避しつつ個人を上回るパフォーマンスを生み出す集合知の発揮、取締役の報酬制度の見直しが与える個人の動機への影響の3つの認知科学的な観点を抽出し、制度改革の効果を分析した。 さらに、企業を取り巻く取締役、債権者、株主の3者の相互関係を、経済的な観点に心理的な観点を加えた二重構造として再構成し、株主の権利としての株主代表訴訟制度や有限責任制度、債権者の権利としての取締役の第三者責任の追及制度、それに対する取締役の免責制度、責任保険制度及び判例法による経営判断原則など、会社法や判例に規定される既存制度の意味について、新たに心理的な観点による解釈を与えた。このような二重構造の分析枠組みにより、制度の意義の理解や解釈を重層的なものとした。 既に2019年度においては、企業内部のM&Aの評価や意思決定における認知科学的な要素を抽出し、経営者の自信過剰や自尊心、エスカレーション、アンカリングやエンダウメント効果などの影響を分析し、独立社外取締役の導入に見られる取締役会の設計などのコーポレートガバナンスの枠組みが、報酬や兼任における利益相反性を有しながらも、企業の意思決定における損失回避に寄与する点も示しており、研究期間全体として、コーポレートガバナンスの実効性確保に通じる枠組みの構築や条件の抽出を進めた。 これらの研究成果は、2019年度には朝岡 (2019) およびAsaoka (2019) として、2020年度には朝岡 (2020) およびAsaoka (2020a, 2020b) として、計5本の論文として発表した。
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