研究課題/領域番号 |
19K13849
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
金 鐘勲 一橋大学, 森有礼高等教育国際流動化機構, 講師 (10801566)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | IFRS / 国際会計基準 / 任意適用 / 会計実務 / 利益調整行動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、国際会計基準 (IFRS) の任意適用が会計実務に与える影響と利益調整との関係、およびその経済的帰結を検証することである。近年、グローバル化の影響を受けて各国の会計基準の統合化がIFRSを中心に急速に進んでいる。こうした世界的な流れを受け、日本においても2010年3月期からIFRSの任意適用が可能になり、2018年10月12日現在195社がIFRSを任意適用済または適用を決定している。 しかし、単一の世界標準の会計基準を多くの国や法域が適用したとしても、会計情報の比較可能性は必ずしも高まらない可能性がある。会計実務は、その作成者のインセンティブの影響を受ける。したがって、作成者のインセンティブに影響を与える国や法域の制度的環境が変わらなければ、企業の会計実務も変わらないはずだからである。海外ではこの種の仮説を支持する研究が行われているが、日本企業を対象とした研究蓄積はまだない。また、経営者の会計選択は利益調整行動を伴う場合が多いものの、この観点からの研究蓄積もない。そこで本研究はIFRSを任意適用する日本企業の会計実務の実態を確認し、利益調整行動との関係の実証研究を行う。本研究は、利益調整行動が観察される場合には、その経済的帰結に与える影響も検証する。 平成31年度では、IFRS適用企業の会計実務についての文献サーベイ、パイロットテスト等の予備的な調査を行った。また、日本企業によるIFRSの任意適用の経済的帰結についても、その会計情報の情報的役割および契約的役割に与える影響という観点から引き続き分析を行った。本研究では会計実務の選択と利益調整行動との間に何らかの関係が観察される場合、その経済的帰結に与える影響も検証する。このため、本研究の最終的な目標を達成するためには、IFRS任意適用の経済的帰結についても引き続き検証していく必要があると判断したためである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IFRSの任意適用が日本企業にどのような経済的帰結をもたらすかに関する調査では、一定程度の研究成果をあげることができた。具体的には、IFRSの適用によって日本企業の当期純利益情報の価値関連性と格付関連性が著しく損なわれることが明らかとなった。このような結果は、日本企業によるIFRSの任意適用が会計情報の情報的役割と契約的役割の双方に対してネガティブな影響を与えうることを示唆する。当該研究結果は、一橋大学経営管理研究科の発行する英文雑誌に掲載され、公刊に至っている。 また、日本企業のIFRS任意適用が投資家間の情報の非対称性に与える影響についても海外の学会にて研究報告を行い、海外の査読付き学術雑誌への投稿を行った。しかし、リジェクトされたため、掲載までには至らなかった。当該論文は、学会発表や論文投稿時に受けたコメントを基に修正作業を行っている。 日本企業のIFRS任意適用が会計情報の価値関連性と格付関連性に与える影響についても追加分析を行っている。まず、価値関連性の分析については、IFRSと日本基準の差異項目のうち具体的にどのような項目が会計情報の価値関連性に影響を与えるかを明らかにすることを試みている。具体的には、平成31年度ではこの論点について文献調査、先行研究の整理、およびパイロットテストを行っており、研究成果として外部に公表することを準備中である。次に、格付関連性の分析については、IFRSの任意適用に伴う当期純利益情報の格付関連性の低下が、IFRS任意適用初年度だけでなく、初年度以降の期間においても観察されるかを確認することを試みている。具体的には、本研究は平成31年度に海外の学会で研究報告を行い、海外の査読付き学術雑誌への投稿を準備中である。とりわけ、先行研究での議論をもう一度取りまとめ、本研究が先行研究に対して追加的に貢献できる部分について議論・考察を重ねている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、平成31年度に行ったIFRS適用企業の会計実務についての文献サーベイ、パイロットテスト等を基に、「IFRSを任意適用した日本企業の会計実務の変化に関する実態調査」を完了し、研究成果として外部に公表することを目指すことを予定している。また、「日本企業によるIFRS任意適用がもたらす経済的帰結」に関する論文についても修正作業を行い、引き続き海外の査読付き学術雑誌への投稿を行う予定である。
|