本研究の目的は,競争的環境における企業の情報開示にかかるインセンティブ構造を解明し,そしてそれを踏まえて,企業のイノベーション活動を促進するような社会的に望ましい情報開示制度について考察することである. 研究期間全体を通じて実施した研究成果の概要は,以下のとおりである. (1) 需要に関する不確実性が存在する数量競争において,当該不確実性について企業が入手する情報の精度が内生的に決定されるセッティングのモデルを構築し,情報の開示あるいは非開示が,企業が入手する情報の精度の選択にどのような影響を与えるのか,そしてその結果,社会厚生にどのような影響があるのかを検討した.当該成果は,海外の査読付きジャーナルに掲載された.また,このモデル分析から導出される理論予測を検証するためにおこなった実験について,その結果を論文としてまとめ,ジャーナルに投稿中である.(2) 競争的環境下での企業の情報開示行動に関する実証研究について,最近の動向をまとめたサーベイを和文雑誌に執筆した.そこでは,企業が直面している競争と情報開示行動との因果関係を明らかにするために,たとえば輸入関税の引き下げといった外生的なショックが利用されていることなどを指摘した.(3) 企業の透明性とイノベーション活動との関係について検討している先行実証研究において,経営者のキャリア・コンサーンの重要性が指摘されている.そこでこの論点について理解を深めるため,キャリア・コンサーンの先行研究で用いられている基本モデルとその拡張について検討した.当該成果は,分担執筆の書籍の1章分としてまとめられ,出版された. 最終年度の成果としてはとくに,上記 (1) で言及した実験の論文を英文査読ジャーナルに投稿し,レフェリーのコメントをうけ,改訂の作業を進めた.
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