研究実績の概要 |
最初に2020年度に実施した短期の費用構造とペイアウト政策に関する実証結果を論文に整理した。その成果は2022年3月の『佐賀大学経済論集』の第54巻第3号に掲載された (研究成果 [1]) 。次に『証券アナリストジャーナル』6月号にコーポレートガバナンス (以下、ガバナンス) とペイアウト政策に関する論文が掲載された (研究成果 [2]) 。 研究成果 [1] の概要は次の通りである。第1に短期的に変動費比率の高い企業が配当を選好する傾向にあった。第2に短期的に変動費比率の高い企業はペイアウトを行いやすく、特に配当を選択していた。第3に短期的に変動費比率が高い企業は現金を保有する傾向がみられた。第4に短期の費用構造は配当総額およびペイアウト総額のボラティリティに正の効果を与え、配当と自社株買いの間に代替関係が成立していた。以上の結果は、費用構造がペイアウト政策に影響すると報告した先行研究 (Kulchania,2016; 篠﨑・ナム, 2017) を補完するとともに、頑健な証拠を提示している。 研究成果 [2] は研究成果 [1] に取り組む中で、近年のガバナンス改革がペイアウト政策に影響することが判明した。第1にスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの発効以降、企業を監視する誘因を持つ投資家の持株比率が高い企業ほど自社株買いを選択する傾向が観察された。また両コードの発効後、(1) 過去5年平均のROEや配当性向が低い企業、(2) 過大投資のリスクが高い企業は配当を選好する一方で、このタイプの投資家の持株比率が高い企業は将来負担とならない範囲でペイアウトする傾向にあった。最後に経済の不確実性の影響を強く受けている企業では、このタイプの投資家が両コードの発効後に自社株買いを選好していた。この結果は、ペイアウト政策とガバナンスに関する既存研究を補完している。
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