本研究は、企業が外部からの情報を獲得するインセンティブを有するもとで、企業の情報開示が、企業の情報獲得行動、投資意思決定に与える影響を考察する。具体的な項目は、企業外部からの情報の経路として(a)アナリストからの情報の入手と(b)資本市場からのフィードバック効果を考える。 本年度は、(b)資本市場からのフィードバック効果に焦点を当てた研究を行った。このフィードバック効果は、一部の投資家が将来業績に関する情報を有する状況、つまり、投資家間の情報の非対称性によって引き起こされる。そして、この情報の非対称性は、一部の投資家の情報獲得行動によって生じる。そこで、企業の開示する情報が、投資家の情報獲得、フィードバック効果に与える影響を分析した。その結果、企業の開示する情報の精度が投資家の入手できる情報と比較して十分に高いとき、企業の開示する情報ほど、投資家が情報を獲得したときの他の投資家に対する優位性は損なわれるため、情報を獲得しなくなる。一方、投資家の獲得できる情報の精度が十分に高いときは、企業の開示する情報の精度が高いほど、投資家は情報を獲得しようとすることが明らかになった。 資本市場からのフィードバック効果では、投資家の情報獲得行動が重要な役割を果たす。そこで本年度では、検証可能なシンプルな理論モデルを構築し、投資家の情報獲得行動を検証した。先行研究において、経営者予想利益の開示がその後の期間における投資家間の情報の非対称性を低く抑えることが明らかにされている。しかし、これは情報開示の短期的な効果を除外した結果である。短期的な効果を検証した他の先行研究では、情報開示のタイミングで、情報の非対称性がむしろ拡大していることが報告されている。そこで、企業の情報開示が投資家間の情報の非対称性に対して及ぼす短期的な効果について、業績予想の正確性に着目して理論および実証の側面から分析を行った。
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