研究課題/領域番号 |
19K13856
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
中村 智彰 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 講師 (20837356)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 監査技術 / 監査目的 / 監査の失敗 / 財務諸表監査 |
研究実績の概要 |
本研究は、監査が失敗している状況において、なぜ監査人が意見形成に必要な監査証拠を適切に評価できなかったのか、とりわけ、監査技術の観点から、監査人がどのようなアサーション・監査要点を設定していたのか、加えてそれに対応していかなる監査技術を選択・適用していたのか、またその結果としてなぜ監査が失敗したのかを明らかにすることを目的としている。監査人がアサーション・監査要点の識別(選択)を誤ると、不適切な監査判断を行い、また結果として不適切な監査意見を表明してしまう可能性があることを踏まえれば、アサーション・監査要点に焦点を当てることは、理論的にも実務的にも重要であると考えられる。 本研究ではまず、裁判関連資料や企業情報などのアーカイバル資料を基に、日本で発生した監査失敗事例を分析し、監査人が監査プロセスのどの局面で、どのような判断ミスを犯し、それが結果としてどのように監査の失敗に結びついたのかを明らかにした。また、本研究は、近年、国際的にも国内的にも基準設定主体および規制当局から監査人に求められている職業的懐疑心の維持・強化にも焦点を当てている。 研究実績として、2021年の5月に論文が掲載された。ここでは、監査の失敗を防ぐには、監査技術と監査要点の結びつきを検討すること(監査技術と監査要点の関係の再評価という対応)が有効であった可能性を示した。ここで提示した監査技術と監査要点の結びつきの再評価を職業的懐疑心の観点から見れば、こうした再評価は、職業的懐疑心を発揮することの形態の1つとして捉えることができる点を指摘した。 加えて、2022年度は、2021年度に引き続き、論文作成に向けて、米国の証券取引委員会(SEC)が公表した資料や監査関連資料から、監査失敗事例の分析を行うとともに、その時代における監査技術(特に確認)に対する監査人の認識を取りまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の進捗状況は、遅れている。初年度となる2019年度は、研究の第一段階として、行政処分情報(たとえば、会計・監査執行通牒)や裁判関連資料などのアーカイバル資料の収集・整理を行った。加えて、裁判関連資料などを利用して、日本で発生した監査技術に関連する監査失敗事例を分析した。2020年度は、2019年度の作業を踏まえ、上記の分析を論文の形で取りまとめた。また、その他の事例を分析するために、アーカイバル資料の収集・整理を進めた。同時に、会計・監査を取り巻く環境を確認するために、監査技術を中心に、会計・監査領域における資料・史料の収集・整理を行った。そして、2021年度にはこれまでの分析を取りまとめた論文が掲載された。 一方で、2022年度は当初の予定では事業計画の最終年度であったが、2021年度に引き続き、社会情勢(特に、新型コロナウイルスの蔓延・感染拡大)を踏まえ、予定していた出張を取りやめた影響で、資料収集等に不足が生じたため、当初の計画よりも遅れが生じた。そのため事業期間を1年間延長させていただき、2023年度は資料の収集・整理・分析作業の遅れを取り戻し、研究を精緻化していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度も、過年度と同様に、行政処分情報、裁判関連資料、委員会報告書などのアーカイバル資料の収集・整理・分析を進めていく。加えて、監査論テキストおよび関連する雑誌記事を基に、監査技術を含めた会計・監査環境を確認する作業も同時並行で進めていく予定である。これまでに扱った監査失敗事例以外の事例の分析を行うために、関連する文献・資料の収集・整理を進め、研究の拡充を図り、論文の形に取りまとめていく予定である。 具体的には、1940年前後の米国における監査失敗事例および当時の監査環境を、たとえば米国の証券取引委員会が公表した調査報告書や当時の監査関連資料を基に、引き続き整理・分析する。また、不足している資料も適宜補いながら、研究成果の公表に向けて研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も2020年度および2021年度と同様に、新型コロナウイルスの影響により、予定していた出張の延期・取り止めが適切であるとの判断に至り、その結果、特に旅費に関して、当初の使用計画との間にズレが生じている。したがって、繰越分については、2023年度において、社会情勢を踏まえながら、延期した出張の費用に充てる予定である。
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