本研究は、日本の上場企業を研究対象に国際財務報告基準(IFRS)の適用が企業の投資行動に与える影響について定性的・定量的に解明することを目的とする。1年目と2年目の研究では、IFRS適用は情報の非対称性を改め、企業の投資に対する財務上の制約を改善し、投資効率を高めることを明らかにした。 研究最終年度にあたる本年度は、これまでの研究成果に依拠して、引き続きIFRS適用の経済的効果の検証に焦点を当て、特に、企業の資本調達行動と投資行動の関係性の側面から、日本の上場企業を対象に、IFRS適用が企業の資本調達行動および企業の投資行動に及ぼす影響を確認するために新たな実証研究を行った。大多数のIFRSに関する先行研究では、株式市場に焦点を当てているが、債務市場に及ぼす影響に関する研究は少数である。新たに実施した実証研究では、株式市場と債務市場の両面に焦点を当て、研究をデザインした。また、リサーチ・デザインでは、傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching)アプローチを用いて、類似した特性を持つ企業をIFRS適用企業群(処置群)とIFRS未適用企業群(対照群)をマッチングさせ、差分の差分(Difference-in-Differences)分析手法を採用した。その結果、日本におけるIFRS適用は企業の資本調達行動および投資行動に統計的に有意な正の影響を与えることが明らかになった。以上について、学会およびジャーナルでの研究成果の発表に向けて論文を執筆した。そして、2022年度に学会およびジャーナルでの研究報告を行う予定である。今後も、引き続き研究の成果を総合的に検討し、世界への研究発信を行うとともに、会計関係者、経営者、資本市場関係者、政策当局への財務報告のより良い構築に向けた提言を行いたい。
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