研究課題/領域番号 |
19K13882
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
四條 知恵 長崎大学, 多文化社会学部, 客員研究員 (80730556)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原爆被害 / ろう者 / 歴史叙述 / 長崎 |
研究実績の概要 |
本研究は、主に長崎をフィールドとして、従来の原爆被害者の中で周縁におかれてきた聞こえない人々(ろう者)を対象として、被害の掘り起こしを実証的に進めつつ、集団としてどのように原爆被害の記憶が形成されてきたのかを明らかにすることを目的としている。この目的を果たすため、研究実施計画全体としては、長崎におけるⅰろう学校、ⅱろう者に関係する組織・グループ、ⅲろう被爆者の3つの軸を対象に調査を進める予定である。 当該年度はこのうち、主にⅰのろう学校における資料の所在調査・収集、聞き取り調査を行った。この調査で得た資料を分析することにより、ろう者の集団形成の要となるろう学校において、大正時代より採用されてきた「口話法」という聴者よりのコミュニケーションをベースとした教育方法が、ろう者(聞こえない人)と教員(聞こえる人)との分断を招き、ろう者の集団形成、さらには被爆体験の発信に影響を与えたというろう者の原爆の記憶形成プロセスの一端を示すことができた。調査・分析により得た当該知見については、複数の学会で報告を行った。 以上の成果は、言語の社会的力学に着目した数少ない歴史研究の一つとして、国家政策や徴兵制の観点から障害者を取り上げる傾向が強かった従来の戦争と障害者に関する研究のすそ野を広げるものである。当該年度の研究の進展は、これまで研究対象とされてこなかったろう者の原爆被害とその表象を実証的に明らかにする上での重要な足掛かりとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの感染拡大による移動の自粛により、特に3月に入ってからは、予定していた調査および出張計画の変更を余儀なくされるなどの影響を受けた。しかしながら、年度を通しては、研究実施計画に沿い、ろう学校を中心に資料の調査・収集および聞き取りを進めることができている。さらに、調査により得た資料を検討し、複数の学会で成果報告を行っており、本研究課題は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染の収束が見通せず、今後の資料調査・収集、聞き取りがいつ再開できるかは不透明であるが、オンラインや郵送などの方法で関係者に資料の閲覧を依頼したり、既に収集した資料をもとに学会で報告した成果を論文の形で投稿したりするなど、状況の許す範囲で研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月下旬に予定していた国立国会図書館における資料の集中調査およびろう学校同窓会関係者への資料調査・聞き取りを新型コロナウィルスの感染拡大による移動の自粛のために、実施することができず、次年度使用が生じた。状況が改善すれば、次年度に改めて、当該調査等を実施する予定である。
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