研究課題/領域番号 |
19K13885
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
中根 多惠 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (10774515)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 芸術労働 / コロナ禍の労働問題 / フリーランス |
研究実績の概要 |
2020年度は、音楽家の個人加盟ユニオン会員を対象とした『音楽家の暮らしと仕事にかんする調査』の集計をおこない、SPSSによる分析を進めた。主な調査票項目は、労働観、主観的労働意識、労働環境、社会貢献意欲、社会階層意識、社会的ネットワークの質と量、ユニオンへの加入動機、ユニオン活動への参加程度であり、これらの変数間の関連を探ることで、芸術労働の問題構造を明確にすることを目的とする分析をおこなった。また、本分析には、コロナ禍の社会における現状を探るために、当初の研究計画にはなかった、ユニオンや文化庁が実施した調査の二次的データを利用した分析も実施した。 とくに今年度注目したのは、芸術労働者(とくにフリーランス)の労使関係上にある不均衡なパワーバランスの要因である。彼らの多くは、今後の継続的な仕事獲得のため、雇用主や運営(依頼者)側との対等な関係性を優先できず、仕事のキャンセル料が支払われないことをある程度「仕方のないこと」として受け容れてしまう背景にもこのパワーバランスの不均衡さを指摘できる。本研究では、フリーランスなどの多様で自律的な働きかた、契約なき曖昧な「労働」の実態、「内面化されたやりがい搾取」「キャリアアップ志向」「社会的ネットワーク重視志向」、芸術至上主義」など芸術労働者に特有の労働観を独立変数として検討し、多変量解析をおこなった。その結果、不均衡なパワーバランスから生じるトラブルの経験数は、フリーランスの労働形態、キャリアップ志向や芸術至上主義の労働観に規定されていることが明らかになった。 この一連の研究成果は、『東海社会学会年報』第13号に特集論文として掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今年度実施予定だった参与観察調査の遂行が困難であったことが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
昨今の社会情勢をふまえると、当初研究計画に記載した国際シンポジウムなどイベントでの参与観察法調査の実施は期待できそうにない(そもそも国際イベントが軒並み中止になっている)。そこで、今後の研究では、こうした状況下で社会運動がどのようにムーヴメントを遂行しうるのかといった点に焦点をあて、運動体レベルのうごきを観察して分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう国内外の移動の規制により、質的調査の実施を延期したため。参与観察法調査を予定しているが、社会情勢をふまえたうえで、実施が難しいようであれば計画を変更し、議事録のテキスト分析などに切り替える予定である。
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