2022年度は東京朝日新聞社のジャーナリストとして活躍し、その後政界に入った中野正剛に焦点をあてて研究を進めた。特に、中野正剛の思想形成期の文章と中野正剛が政界で活躍した1930年代の増殖した中野正剛論との関連性を分析し、「中野正剛の修養と個性」『京都メディア史研究年報』(第8号、2022年4月)として公刊した。また、ジャーナリズムについて原理的に考えるために、「日記性の復権―鶴見俊輔「ジャーナリズムの思想」」『メディア史研究』(52号、2022年8月)を公刊した。さらに、総力戦体制とメディアとの関連を考えるため、「後藤新平の逓信事業、公共放送、そして衛生思想」『後藤新平―衛星の道』(藤原書店、2023年3月)を執筆した。 本研究は、昭和期の「世論」形成のありようを「メディア出身議員」という概念から政治とメディアの観点から分析するものであった。特に、中野正剛を中心に分析をすすめ、中野正剛が個人主義者としての個性を獲得していく過程、言論による輿論政治を求めるがゆえに妥協や交渉を批判する態度、痛烈な批判的言論活動が中野のメディア環境における存在感を増大させて、政治的資源となっていったこと、二項対立的な言論活動を果敢におこなったこと、第一次世界大戦を英国で経験したがゆえに英国型と中野が見た総力戦観を理想視し、言論の自由を重視したことを明らかにした。 こうした研究の成果をまとめて、2023年度中に『中野正剛の民権』として単著を公刊する予定であり、現在、その執筆を進めている。
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