研究課題/領域番号 |
19K13907
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大久保 将貴 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (90807835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 介護提供主体 / 大規模社会調査 / 格差 / 因果推論 / 機械学習 / 就業 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、超高齢社会における持続可能な介護供給体制はいかにして可能かという問いを念頭に、家族介護者・介護労働者・介護組織という様々な介護供給主体の実態・問題・解決策を探求することであった。本年度は、介護労働者に着目した論文を2本、介護組織に着目した論文を1本執筆した。以下に分析結果を簡単に示す。 1)日本における介護職の賃金階層の変化:本稿では、「賃金構造基本統計調査」を用いて、介護保険創設以降の日本における介護労働者の賃金格差(不平等および階層)の長期トレンドを明らかにした。分析の結果からは、介護保険創設以降、賃金階層指標(nonparametric stratification index: NSI)はほとんど変化していないことが明らかとなった。 2)中国の国内移民における潜在的介護労働者の収入階層:中国国内移民に関する不平等と階層の分析をした。その結果、不平等を平均収入の差でみると、介護/非介護労働者間において不平等が拡大している一方で、介護/非介護労働者の収入階層は低下傾向にあることがわかった。また、階層化の低下はジェンダー間によって生じていることも明らかとなった。さらに、ウェイトを用いた反実仮想分析によると、介護職と非介護職間の収入階層の変化は学歴の変化には起因しないことを確認した。 3)介護サービスへのアクセスが就業率に与える影響:都道府県パネルデータを独自に構築し分析をした。分析結果からは、i)介護施設定員率は就業率と関連しないこと、ii)在宅介護サービスのうち、訪問介護サービスアクセスは女性の就業率とは無関係であるが、男性の就業率とは負の関連にあり、短期入所施設アクセスは男性の就業率と正の関連にあることがわかった。こうした分析結果は、介護サービスの種類によって、アクセスの向上が就業率を制約する可能性があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ディスカッションペーパーを含めると、介護提供主体である家族介護者・介護労働者・介護組織の全てについて、データを整備し、かつ分析を終えた。今後も新たに取得すべきデータは残っているものの、研究課題1年目はデータ取得と整備に時間を費やす予定であったため、分析まで終えている現況は、当初の計画以上に進展がある。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、ディスカッションペーパーや学会報告を終えた研究については、査読付き英文雑誌に投稿をする。現段階で、投稿を予定している論文は5本あるため、今後の優先すべきタスクはこの作業になるだろう。第2に、第1の作業と並行して、家族介護者・介護労働者・介護組織の分析に必要かつ未取得のデータについて利用申請をおこなう。第3に、予算に余裕がある場合には、サーベイ実験の実施を検討する。
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