研究課題
2年度目である本年度は、①前年度に引き続き、オーストリア初期社会学史に関する資料収集と、オーストリア社会学史文庫の『ニューズ・レター』の各記事および『ドイツ語圏の社会学の歴史要覧』所収のオーストリア社会学史に関する論文の検討と翻訳を行うとともに、②フリッツ・ハイダーのオーストリア時代と同時期のオーストリアを含むドイツ語圏の社会学における自然科学の知見の影響を見ておくために、当時のドイツ語圏の社会学の集大成とも言えるアルフレート・フィーアカント編『社会学辞典』(1931)のテオドール・ガイガーによる「社会学」項目の翻訳と検討を行った。現時点での研究成果として、①オーストリアや特にグラーツでは、当初より必ずしも現在のディシプリンとしての社会学には収まらない社会学的研究が行われており、1920年代にはハイダーの学位論文の副査であるフーゴー・シュピッツァーが哲学的社会学講座を設置していた。ハイダーが自然科学や哲学的認識論のみならず、社会学的知見をどのように摂取していたのかという点も、あらためて追求すべき課題となった。②またガイガーの論考からは、当時の社会学における進化論や人種学説の存在感に加えて、ゲオルク・ジンメルらの形式社会学と、テオドール・リットらの現象学的社会学を摂取したガイガー自身の学説を確認することができた。今日の心理学の一分野としての社会心理学とは異なる、社会学の一分野、あるいは社会学と心理学との境界横断的な分野としての社会心理学の考え方と以上の学説との結びつきも示唆され、そうしたいわば初期現象学的社会学の議論と、ハイダー自身の系譜づけによる「現象学的心理学」の路線との接点についても、あらためて検討の対象としたい。加えて、社会学的帰属概念を現代の言説分析に応用する試みとして、「社会学的言い訳」言説を社会学的帰属に対する批判と応答の観点から見る学説研究を開始した。
2: おおむね順調に進展している
2年度目も、1年度目に続きオーストリア初期社会学史に関する資料収集と文献の検討について、一程度進めることができ、翻訳論文を刊行することができた。加えて、①初期現象学的社会学と現象学的心理学という二つの流れの、帰属概念および社会心理学を媒介とする両者の関わりと、②社会学的帰属に関する学説史に接続するかたちで「社会学的言い訳」言説という新たな事象に応用して論じることについて、今後の新たな研究の可能性を得ることができた。
まず、現在進行中のオーストリア初期社会学史に関連する翻訳論文の刊行を行う。それに続けて、①オーストリア初期社会学史、②20世紀前半の自然科学方法論における帰属=対応づけ概念、③社会科学方法論における帰属=帰責概念の展開、以上の各面に関わる研究報告を行うとともに、論文執筆を行う。また④「社会学的言い訳」言説について、社会学的帰属概念の学説史に照らし合わせて、検討を進める。
海外からの取り寄せを依頼した一部の資料について、資料入手のめどは立っていたが、今年度の支払期限中に入手することができなかった。次年度の早期に入手できる見込みなので、その時点で支払いを行う予定である。
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研究紀要
巻: 101 ページ: 27-41
社会学史研究
巻: 42 ページ: 91-109
社会学論叢
巻: 199 ページ: 49-76