研究課題/領域番号 |
19K13916
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木下 衆 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (00805533)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知症 / 看取りケア / 家族介護 / 医療社会学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、終末期を迎えた認知症患者の意思を、介護者たちがどのように読み取り、解釈しているのか、特に介護家族の役割に注目しながら明らかにすることだ。認知症介護においては現在、患者本人の意思の尊重が重要な目標として掲げられている。しかし、認知症が記憶障害やコミュニケーションの障害を特徴とする以上、様ざまな困難が生じる。そこで介護家族はしばしば、患者のライフヒストリーに基づいて患者本人の意思を解釈し、選択を代行しようとするが、それでも限界が生じる。 本年度は特徴的なケースとして、実母Q氏の看取りを経験したO氏(男性・60代)と、その介護に途中から加わった親族P氏(女性・60代)へのインタビューを実施した。O氏・P氏・Q氏の三人は「家族」だが、三人が共有してきた歴史や関係は、それぞれ異なる。O氏が、患者のライフヒストリーから介護のあり方を考える一方、P氏は自分自身の経験も踏まえ、新しいはたらきかけをQ氏に試みる。O氏・P氏が語るのは、そうした介護の関係性の変化により、Q氏の意志が次々に表出されるようになったことだ。現在、認知症患者の「意思決定」支援だけでなく、「意志形成」支援の重要性が指摘されている。家族や介護の関係が変化する中で、「患者本人の意思」のあり方はどう変化するのか。今後分析を進めたい。 また本年度は新たに、介護施設Xでの「リモート面会」の調査も開始した。リモート面会とは、コロナ禍に対応した面会方法で、高齢者の居住スペースと面会用スペースをビデオ会議システムで中継し、タブレット端末を利用して会話するものだ。感染症対策が喫緊の課題となるなか、どのように認知症患者本人の意志を尊重するか。家族と、介護・医療専門職はどう連携できるか。コロナ禍という状況を織り込んだ分析を、今後展開したい。 このように本年度は、過去の特徴的ケースの調査と現在進行する問題の調査を、並行して実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大し、調査計画を大きく変更せざるをえなかった。調査協力を依頼していた家族会(介護家族の自助グループ)の多くが活動を休止し、介護施設も訪問することが困難となった。私も、無理な調査の実施は避け、関係者とは電子メールなどでやり取りを続けた。 そうした状況だが、調査面では大きな進展があった。まず、2020年夏には、実母Q氏の看取りを経験したO氏(男性・60代)へのインタビューを実施した。O氏は約10年の介護歴があり、地域の家族会では中心メンバーも務めていた。インタビューには、O氏とともに介護を担った親族P氏(女性・60代)も参加した。複数の視点から語られる看取り経験は、先行研究と比較しても極めて貴重なデータだと位置づけられる。21年度以降、本格的に分析する予定である。 また新たに、介護施設Xでの「リモート面会」の調査も開始した(リモート面会の詳細については、「研究実績の概要」を参照)。この調査では、主に介護家族I氏(60代・女性)の協力を得て、面会場面を継続的に録画・録音している。介護施設Xでは継続的にフィールドワークを実施しており、I氏にも10年ほど調査に協力してもらっている。コロナ禍が介護現場に与えた変化について、特に本研究が課題とする「患者の意志の尊重・意志の解釈」という観点から、貴重なデータが得られるものと期待している。 研究面では、これまでの調査成果をもとに、専門的観点からさらに議論を発展させることに努めた。関西社会学会では、著書に基づく「対話」という形式をとり、大会での口頭発表および学会誌上で、議論を展開した。三田社会学会では、社会調査における「映像」のあり方を中心に議論し、論文へとまとめた。 困難な状況ではあるが、当初計画の遂行、新たな課題の発見、これまでの成果の還元と、順調に成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今後の研究においては、COVID-19対応を最も重視する。本研究は、関西を中心に調査計画をたてていたが、調査協力者の住む地域は、特に2020年4月以降、感染拡大が深刻な状況が続いている。O氏の他にもインタビューを予定していた人、見学を希望していた家族会などがあるが、調査の実施にあたっては極めて慎重に検討をすすめる。 仮に新たなインタビュー調査が難しくても、これまでの調査で、すでにかなりのインタビューデータが集まっている。2021年度は、そうしたデータを精緻に分析し、学会などで報告することにも注力したい。 一方、リモート面会の調査については、できるだけ継続して実施したいと考えている。この調査については今のところ、感染症対策がかなり徹底された状況で実施できている。当初の計画になかった調査ではあるが、コロナ禍の認知症ケアへの影響を記録するためにも、取り組んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大し、調査計画を大きく変更せざるをえなかったためである。本計画は、関西を中心に調査計画をたてていたが、調査協力者の住む地域は、特に4月以降、感染拡大が深刻な状況が続いている。調査協力を依頼していた家族会(介護家族の自助グループ)の多くも活動を休止し、介護施設も外部から訪問することが困難となった。私も、無理な調査の実施は避け、電子メールでのやり取りなどを続けた。 そのため、旅費支出を中心に支出計画と実際の支出に大きな差が生じ、次年度使用額が生じることとなった。 今後は、新たに開始した「リモート面会」の調査で、特に助成金を使用する予定である。調査を本格化すれば、機材整備、テープ起こしなどの経費がかかるはずだ。十分に環境を整備し、調査を発展させたい。 本研究が対象とする認知症ケア、特に看取りケアに関わる人びとは、感染リスクを徹底的に避ける必要がある。当初の使用計画にこだわるのではなく、柔軟に計画を変更しつつ、適切な調査設計をすることを心がけたい。
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