研究課題/領域番号 |
19K13916
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木下 衆 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (00805533)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 認知症 / 看取りケア / 家族介護 / 医療社会学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、終末期を迎えた認知症患者の意思を、介護者たちがどのように読み取り、解釈しているのか、特に介護家族の役割に注目しながら明らかにすることだ。認知症介護においては現在、患者本人の意思の尊重が重要な目標として掲げられている。しかし、認知症が記憶障害やコミュニケーションの障害を特徴とする以上、様ざまな困難が生じる。そこで介護家族はしばしば、患者のライフヒストリーに基づいて患者本人の意思を解釈し、選択を代行しようとするが、それでも限界が生じる。 そうした困難を先鋭化させたのが、2020年から続くコロナ禍である。2022年度は、これまで長年調査に協力してくれていた介護家族Iが実母Kを、同じくMが実母Lを、それぞれコロナ禍の最中に看取った。彼らはそれぞれ、認知症患者を看取る上で、非常に特徴的な経験をしている。しかし、看取り直後の介護家族に対し、本格的な調査を実施することには倫理上の問題が考えられる。そこで2022年度は、あくまで予備的な調査に留め、本格的な調査は2023年度に実施することとした。 また2022年度は、複数の家族会(介護家族の互助グループ)と連絡を取り、2023年度に本格的な調査を実施できるよう、打ち合わせをした。いずれの会も長年の調査協力団体だが、コロナ禍でこれまで、本格的調査が難しい状態にあった。今回の研究目的に即した調査を実施するべく、スケジュールを調整している。 さらに2022年度は、これまでに集めたデータをもとに、「認知症の人の心はどこにあるのか」(『三田評論』1271号)、「変わる家族介護の姿」(『現代思想』50(14)号)という2つの論文を発表した。前者は、介護家族が認知症の人の「こころ」を読み取る相互行為場面を分析したものであり、後者は、家族介護の歴史的な変遷を分析したものだ。 2023年度も、調査を発展させつつ、並行してデータを分析し発表したい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度も、新型コロナウイルス感染症の影響で、調査計画を立てづらい状況にあった。 しかし、長年の調査協力者である介護家族IとMが、それぞれコロナ禍で看取りを経験するなど、調査を実施する必要性は高まっている。 そこで2022年度は、予備的な調査(介護家族との打ち合わせ、家族会への連絡等)を実施し、2023年度に本格的な調査を実施できるよう、準備を行った。 一方、研究内容の発表においては、大きな成果をあげられた。複数の分野の専門家が寄稿する「認知症」特集に社会学の立場から参加したこと(『三田評論』1271号)、また「ヤングケアラー」特集で家族介護の歴史的な変遷を議論できたこと(『現代思想』50(14)号)は、研究成果の社会還元という意味で、大きな意義があったと捉えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は、介護家族IとMの看取り経験について、調査を実施する予定である。二人(二家族)とも、コロナ禍での看取りという特徴的な経験をしている。認知症看取りケアの課題が、コロナ禍においてどのように先鋭化したか、十分なインタビュー調査を実施したいと考えている。 また、家族会(介護家族の自助グループ)での調査も実施する予定である。コロナ禍で一部活動を休止していた団体もあるので、この間の会員のサポート体制などについても、調査を実施したいと考えている。 ただし、今後の研究においても、新型コロナウイルス感染症対策を最も重視する。また、看取り経験が非常に繊細な経験であることは言うまでもない。研究者の計画を優先するのではなく、各介護家族の状況に即し、調査を実施したい。 コロナ禍は、本研究のテーマである「終末期を迎えた認知症患者の意思を、介護者たちがどのように読み取り、解釈しているのか」という問題を、先鋭化させている。コロナ禍前のデータを収集・分析することも継続しつつ、コロナ禍の認知症ケアへの影響も、可能な形で記録し、分析していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、調査計画を大きく変更せざるをえなかったためである。本計画は当初、関西を中心に継続的なフィールドワークを実施する予定であった。しかし、調査協力を依頼していた家族会(介護家族の自助グループ)の多くも通常の活動を休止し、介護施設も外部から訪問することが困難となった。また、2021年度まではデータの分析などを、ほとんど在宅で行った。以上の理由により、物品費・旅費を中心に支出計画と実際の支出に大きな差が生じている。 2022年度は、所属する慶應義塾大学三田キャンパスで研究活動を実施できるよう、研究室の環境を整えた。音声、映像、文書など、それぞれのデータの特徴に対応した機材を揃えたことにより、環境は大きく改善した。ただし、コロナ禍で実際に看取りを経験した介護家族への調査に関しては、打ち合わせ段階にある。そのため本年度の支出は、物品費に大きく偏ることとなった。 2023年度は、複数のインタビュー調査を予定している。そのテープ起こしなどの調査関連経費で、残りの予算の3分の1程度を使用する計画だ。また、データが蓄積されたため、アルバイトを雇用してのデータ整理も計画している。そのために必要な機材なども、適宜導入・更新する予定だ。調査計画が、当初の予定から大きく見直されたため、それにあわせて、研究費の使用計画も柔軟に変更し、適切に運用する。
|