研究課題/領域番号 |
19K13918
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
村上 彩佳 上智大学, 法学部, 研究員 (10830656)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 同性婚 / フランス / ジェンダーバックラッシュ / 保守運動 / 生殖補助医療 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年のジェンダーをめぐる政治的対立の場面で見られる、祝祭的な運動戦略を用い大衆性と政治との接続性を両立させた、「新しい保守運動」というべき巧妙化したジェンダーバックラッシュを可能にしているメカニズムを問う。そのためにフランスの同性婚反対運動団体「みんなのデモ」と、同デモへのフェミニストを中心とした対抗運動の実証的研究を行う。 本研究の目的は、フランスの「みんなのデモ」の実態を解明する作業を通じて、日本で今後拡大が危惧される「草の根保守運動」の将来像と、その対抗方法について新たな視座を示すことである。 研究内容は、1.同性婚反対運動団体の言説・表象の時系列的分析、2.同性婚反対運動団体のデモへの観察フィールド調査、3.デモに参加した市民への聞き取り調査、4.フェミニストが行う同性婚反対運動団体への対抗運動の調査、5.フランスの事例から、日本の「草の根保守運動」の将来的発展像と、発展への対抗方法に関する示唆の導出の5つである。 本年度は1年間フランスで在外研究を行い、上記項目の2、3、4についてパリで現地調査を行った。2.については「みんなのデモ」の運動やイベントの観察調査を行った。3.については「みんなのデモ」への参加者に対してイベント会場での口頭インタビューを行い、今後のインタビュー調査の方針を定めた。4.については「みんなのデモ」に対抗する市民運動団体の中心的なメンバー2名に対してインタビュー調査を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる本年度は、フランスで1年間在外研究を行う機会を活用し、集中的にフィールド調査を行った。 フランスにおいて、女性同士のカップルや独身女性が生殖補助医療を利用することを法的に認める法律(PMA法)の審議から同法の成立の過程で激化した「みんなのデモ」への観察フィールド調査を行った(研究内容2)。9月にパリ近郊で開催された全体集会や、1月にパリで行わた大規模デモ行進、1~2月に複数回実施された元老院前の抗議デモなどの観察調査を行い、参加者の年齢層、運動形態、組織の様子を検討することによって、「みんなのデモ」が用いる大衆的・祝祭的運動戦略を確認した。 さらに、同団体のデモに参加している市民の中でも特に若者に焦点を当て、彼らに対して今後のインタビュー調査の予備調査として位置づけられる口頭インタビューを行い、活動家のプロフィールや運動の動機づけについて確認した(研究内容3)。 同性婚や同性カップルへの生殖補助医療の認可に反対する「みんなのデモ」に焦点をあてた上記の3つの研究内容に加えて、「みんなのデモ」の主張を形骸化・無効化させるための、対抗(カウンター)運動についても調査を行った(研究内容4)。フェミニストやLGBTQsの権利を擁護するメンバーによって組織された「みんなのデモ」への対抗運動を調査し、2人の活動家に対するインタビューを実施した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目にあたる来年度は、フランスの現地調査で収集したデータの分析の精緻化と研究経過・成果の発表に取り組む。「みんなのデモ」の参加者の年齢層、運動形態、組織の様子を分析・考察し、「みんなのデモ」がいかに大衆的・祝祭的運動戦略を用いているのかを解明する。分析の経過は、2020年6月に開催予定の日本女性学会で発表し、他の研究者から助言を得る。 さらに、「みんなのデモ」の主張を形骸化・無効化させるための対抗(カウンター)運動を分析する作業を通じて、保守反動運動に対して切り返しを行う社会運動の可能性を探り、社会運動によってジェンダーバックラッシュに抗う可能性を考察する。 新型コロナウィルスの流行状況によって変更する可能性があるが、研究内容2,3,4については、上記の分析の経過をふまえて秋あるいは冬にフランスで追加の現地調査を行う予定である。追加の現地調査が不可能な場合には、過去にインタビューをした調査対象者や、ソーシャルネットワーク上で情報発信をしている活動家にスカイプや電子メールを用いてコンタクトを取り、追加のインタビュー調査を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
フランスにおいて1年間の在外研究を行っている間に、現地フィールド調査を集中的に行うことができた。そのため、フィールド調査にかかる旅費を節約することができた。 繰越金は、次年度にフランス現地調査を行う際の旅費として用いる予定である。
|