本研究の最終成果報告書として刊行した書籍『地方社会の災害復興と持続可能性』の内容をふまえ、成果報告や現場での意見交換を行った。成果報告については、ISAでの研究報告などを行った。現場での意見交換については、南海トラフ地震津波で被害が想定される和歌山県などを訪問し、現地で防災や事前復興に取り組む実務者や研究者と情報交換などを行った。 上記の結果、build back betterを前提とする日本の復興を相対的に捉える視点や、気候変動や乱開発、社会格差など恒常的に生じている社会課題やgradual onset disasterが、自然災害を激甚化させるも視点などを得られた。これらから、大槌町での被害の特徴として、少子高齢化が進む中で町を担っていた壮年層へ責務が集中し、そうした層への人的被害が大きくなり、震災前までの地域振興の経験や理念の継承が極めて難しくなったことで、震災後に入ってきた外部支援者を生かせず、結果として振り回される事態も招いたという状況を、国際的な災害研究の視点から捉え直す機会となった。 また、和歌山県での情報交換を通じ、防災教育が地域教育の中で行われるべき、事前復興として行われる高台での都市開発のために要支援世帯がより海に近い旧市街地に取り残される課題が生じている、といった知見を得られた。地方都市や過疎集落では、活動領域が異なっていても(例:産業、文化活動、福祉、教育など)、事業は他の領域で中心的な役割を果たす人々の応援なしには継続しないという本研究の知見とつなげ、防災に関わる事業のみを切り取って進めるのではなく、教育や福祉とも連携させていくことの必要性を再確認することができた。また、事前にレジリエンスを高める具体的な方策例として、地域と学校との協働や被災地と未災地との交流、入会地など地域の共有材を再発見・活用していくことなども重要となることが観察された。
|