本研究は、医療・福祉サービスとつながっていない認知症高齢者へのアウトリーチが抱える課題とそれへの対処、支援に求められるスキルを明らかにすることを目的に実施した。 研究からは、アウトリーチの課題のひとつとして、援助スキルが浮かび上がった。アウトリーチでは、困りごとを抱えて援助者のもとに訪れるクライエント(Cl.)のニーズに応えるという待機型の援助とは異なるスキルが求められる。だが、認知症高齢者に対するアウトリーチでは、そのようなスキルが十分に確立されていない現状が明らかとなった。一方、心理支援に関する知見からは、自ら援助を求めない背景に目を向けること、援助の方向性を予め想定せず、Cl.との対話を通して一緒に定めていくことの必要性が示唆された。また、 ACT(包括型地域生活支援プログラム)のアウトリーチスキルに関する知見からは、支援者の存在をよく知ってもらうこと、訪問者としての適度な遠慮を保つこと、訪問先の家庭の文化に合わせること等が、Cl.との関係構築に寄与することが示されている。こうしたスキルは認知症高齢者へのアウトリーチにも般化しうる可能性が示唆された。 認知症の人の家族介護者に対するオンライン心理支援に関する研究からは、共同治療者の存在により援助場面を俯瞰的に捉える視点を取得しやすくなることが示唆された。Cl.との関係構築に難渋するアウトリーチでも、主としてCl.とやりとりする援助職とは別に、その状況を俯瞰しながら必要に応じ介入する援助職を配置し、協力して支援を進める必要性が示唆された。 さらに、アウトリーチは人的・時間的コストのかかる支援形態であるため、それを可能にするには職員・職場体制の充実が求められること、問題が複雑化する以前の段階からのアウトリーチを可能にするには、認知症の普及啓発や支援機関と地域住民とのつながりづくりも課題となることが示唆された。
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