研究課題/領域番号 |
19K13939
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
松浦 智和 名寄市立大学, 保健福祉学部, 講師 (90530113)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ソーシャルワーク / 社会福祉 / 統合失調症 / 育児 / 子育て / 支援 / 精神保健福祉士 |
研究実績の概要 |
本研究では、統合失調症患者の育児の課題について、これまでの先行研究でもほぼ指摘されていない当事者の親(祖父母)と当事者の子(孫)の関係にも着目したインタビュー調査を試み、コミュニティづくりも含めた支援モデルの検討を行うための基礎資料を得ることを目的とする。 これまでも統合失調症患者の妊娠・出産・育児の難しさを検討したところであるが、支援者へのインタビューでは、看護師・保健師、ソーシャルワーカーを中心に、妊娠中の服薬のコントロールや再発のリスクを想定し、積極的に支援することに躊躇する者も少なくなく、加えて、保健師やソーシャルワーカーなど生活支援を担う者の抵抗感や、一方で「自己決定」や「リカバリー」などの支援の視座から、戸惑いを感じることも少なくないことが示唆されている。さらに、統合失調症の親を子どもが支援するといういわゆるヤングケアラーに関わる諸課題も見えてきている。 2年目の2020年度は、これまでの先行研究や筆者自身が昨年度に実施したインタビュー調査の結果を踏まえて、「育児の課題」「利用しているサービスなど」「日頃から関わりのある専門職等」「病気と育児」「育児と他者との関係」「子どもへの思い」「親(祖父母)への思い」を内容とする「統合失調症を持つ人々の育児に関するアンケート調査」を実施し、現在、回収したものから解析を行っている最中である。実施に際しては北海道内の精神科医療機関・障害福祉サービス事業所の協力を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では2020年度中に調査の解析まで終える予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、医療機関や相談支援事業所へ当事者が出向かないケースが多くあり、各機関の協力者から当事者へ調査票を配布することが遅れたことによる。遅れた分については2021年度の調査と並行して実施できることから、研究全体の進捗には大きな影響はないと思慮される。
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今後の研究の推進方策 |
当事者へのインタビュー調査やアンケート調査の結果から、筆者の関心は以下のように約言される。まず第1に、当事者の病状悪化による“育児の離脱”をどのようにフォローするかという点である。入院に限らず、病状が悪化した際に、数日では済まない離脱期間があり、この間は、祖父母の育児負担に加え、親子関係の不安定さへの危惧、子どもの価値意識の形成に大きく影響を与える可能性と、実態はなくともそこに危機感を感じる当事者像が見えた。 第2に、「子育てが続いている」と感じる祖父母の声にどのように応えるかということである。祖父母にとっては子どもと孫の支援が並行する実態は、実際の負担と負担感の大きさは容易に想像できる。同居・近居を選べばなおそれが続くため、未来への不安感は大きくなるものと推測できる。そして、その関わりの質・量を祖父母側が選択できない事実がある。第3に、陳腐な表現であるが、家族以外の支援体制の構築である。やがて、祖父母なき後にどのように備えるかという点において、どの領域がどのような関わりができるのかということについて、制度・サービスの視点よりも専門職個人の価値観に左右される可能性がある。 具体的にどのような取り組みが奏功するのかということは議論があるが、統合失調症患者の育児・子育てを考えることは、育児の社会化の視点と同時に、シームレスという言葉の意味を問い直す過程でもある気がしてならない。率直に地域にはソーシャルワークを中心に支援モデルがないことは明白であり、その支援モデルに言及すべく2021年度の研究活動を実施したい。
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