本研究の目的は、クライエントの人種的・民族的多様性という観点から福祉サービス供給に求められる今後の再編のあり方を明らかにすることである。相談援助の観点から、外国人クライエントへの福祉サービス供給において生じる新たな質的に多様な需要への対応の必要性を指摘し、海外の事例としてイングランドの自治体における実践を踏まえながら、外国人ソーシャルワーカーの活用も念頭に置いて、今後の福祉サービスに求められる再編を明らかにすることである。 上記の研究目的の下で、2023年度は、2022年度に実施したイギリスでのヒアリング内容の整理を中心に研究を行った。2022年度のヒアリングが、コロナ禍以降のイギリスの自治体福祉部門の業務逼迫の影響もあり十分に行えなかったこともあり、当初の予定よりも限られたが、ケアの質委員会(CQC)など、実施できた範囲でヒアリング内容の整理を行った。 上記のような制約のなかで、当初予定していた研究が難航した面もあるが、他方で、イギリスの福祉システムそのものが、移民や難民をはじめ、多様なクライエントが等しく利用可能であるためにどのような仕組みを築いているのか、制度面からの考察を行った。とくに、医療制度のNHSと公的扶助を含む現金給付の仕組みであるユニバーサル・クレジットに着眼し、これらの制度において、多様なクライエントのアクセスを可能にする仕組みがどのように築かれているのか、イギリスの福祉制度が依拠する普遍主義の理念を踏まえて検討した。
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