研究課題/領域番号 |
19K13951
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
加藤 倫子 立教大学, 社会情報教育研究センター, 特定課題研究員 (40756649)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬物事犯で受刑中の女性対象者 / 保護観察対象者 / 犯罪からの離脱 / 受刑経験のある女性の支援 / 生活困窮 / 社会的排除 / 拘禁の痛み |
研究実績の概要 |
当初の計画では、最終年度は、前年度までの調査結果の分析を継続し、保護司や保護観察官による支援や介入が、対象者が犯罪や非行から離脱するプロセスにおいてどのように寄与しているのかを考察するとともに、逆説的に離脱が阻害される場面について、個別具体的なケースにもとづく検討・考察を行う予定であった。2020年度以来、調査計画の見直しが必要となったため、それに即して、本年度も追加の調査を実施する予定であった。しかし、前年度同様、新規の調査を行うことができなかったため、これまでに得られた調査データを整備するとともに、分析に傾注した。 前年度同様、2020年度に収集した、薬物事犯で受刑中の女性対象者にたいして実施された刑務所内プログラムの録画データをもとに、刑務所出所後の生活を見据えた「支援的な処遇」を受刑者たちがどのように経験しているのかについて分析した。分析の結果、従来より指摘されてきた刑事施設に収容されることにともなって生じる「拘禁の痛み」は、「支援的な処遇」を通じて緩和されていたとは言い難く、むしろ別種の「拘禁の痛み」が生み出されていたと言える。また、この別種の「拘禁の痛み」に対して、受刑者たちはよりましなほうの「拘禁の痛み」を選択するべく、「支援的な処遇」に対して拒否的な態度をとるという状況が生まれていたことが明らかとなった。「支援的な処遇」の中には出所後の生活を見据えた支援はもとより、受刑者たちの「主体性の回復」に資するプログラムも含まれている。そのため、このことが対象者に様々な影響を及ぼし、特に、出所後の刑事司法プロセスや支援に対する不信を抱く可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のとおり、本年度は本研究の課題にとって非常に示唆的な分析視座ならびに結果を得ることができた。しかしながら、前年度に引き続き、新規の調査実施には至っておらず、本研究の本来の課題であった、社会内処遇にかかわる人々(保護観察対象者・保護司・保護観察官など)への調査を実施することがかなわなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、今年度が最終年度だったが、次年度に補助事業期間を延長することとなった。その主な要因は、コロナ禍によって計画通りに調査を実施することができず、研究全体に大幅な変更が生じたことがあげられる。とはいえ、最終年度に、新規の調査を実施し分析・成果の公表までを行うことは現実的とは言えないため、次年度も分析に注力することが妥当である。特に、前年度にも課題として掲げていた、刑事司法システム(矯正/保護双方)の処遇において、対象者を社会に適応させ「犯罪や非行をしない(再犯や再非行をしない)」主体へと変容させる「主体変容アプローチ」と、住居や就労の機会を得て生活を営むための支援を行う「生活支援アプローチ」が相互に関連することが観察されたケースについて、それがどのように/なぜ行われているのか、といった点について分析を深めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度以来、新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた調査研究のための出張の予定がキャンセルとなっており、旅費に大幅な余剰が出ている。一方、調査研究に必要な図書や物品を購入したほか、収集したデータを整備するための人件費に充てたが、旅費の余剰を上回るほどにはならなかったため、この金額の次年度使用額が生じた。 次年度は最終年度に当たるため、分析枠組みの精緻化のために必要な図書の購入や研究会の実施を予定している。
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