当初の研究計画では、保護観察対象者(以下、「対象者」とする)へのインタビューを実施し、その結果を、保護司や保護観察官へのインタビューデータと突合し、どのような要因が離脱を促進する/おびやかすのかを検討する予定であった。しかしながら、昨年度に引き続き、今年度も対象者に対して新規の調査を行うことができなかった。そのため、今年度も2020年度に収集した、薬物事犯で受刑中の女性対象者にたいして実施された刑務所内プログラムを分析し、社会内処遇への移行に向けてどのようなことが課題として挙げられているのかということや、社会内処遇への移行の前にどのように刑務所内での生活をsurviveしている/していくのかということの検討を継続した。その結果、受刑中の女性たちがプログラム中に語る内容から、違法薬物を使用するに至った背景に、本人の特性、周囲の人間関係といった個人的な要因にとどまらず、個々人が抗することの難しい、女性たちが置かれている不利な構造的要因(さまざまな暴力にさらされている/さらされやすい状況など)が存在しているにもかかわらず、そうした構造的な要因に対しては制度的な対処が準備されておらず、個々人で対処せざるを得ないという可能性が示唆された。 研究期間全体を通じて、対象者は刑事司法プロセスによって「犯罪や非行をしない」主体へと変容することを求められるが、実際にはそれが困難となっている可能性が示された。その理由として、対象者は根本的な要因が解決できないまま、処遇上は「犯罪や非行をしない」生活環境を求められることになり、それをできるだけ早期に達成しようと善処するが、そこで焦りが生まれることでふたたび犯罪や非行に巻き込まれるようになったり、あるいは、対象者が刑事司法の処遇を受けたことがスティグマとなってしまい生活の立て直し自体が難しくなってしまうこと等が挙げられる。
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