研究課題/領域番号 |
19K13959
|
研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
中野 加奈子 大谷大学, 社会学部, 准教授 (30726047)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ソーシャルワーク / ソーシャルアクション / 裁判 / 生活史 |
研究実績の概要 |
2019年度は、主に「いのちのとりで裁判アクション」を例に取り上げて研究を行った。特にこの活動を「裁判アクション」と名付け、ソーシャルアクションの一形態としての分析を行った。 主な研究成果としては、2019年度は「いのちのとりで裁判アクション」の概要と、このアクションが地域に根付きエンパワーメントを促進している実態について国際学会でポスター発表を行った(題「Social action for the eradication of poverty through changes in the community - Making the public aware of welfare beneficiaries’ situation」(The World Community Development Conference 2019))。本発表では、地域住民との協働や当事者組織化の過程と、イギリスを中心に展開される「コミュニティ・ディベロップメント」との関連性を深める必要性を指摘された。 また、このアクションを「裁判アクション」として位置付けその特徴と課題について日本社会福祉学会第67回秋季大会において口頭発表を行った(題「ソーシャルアクションとしての「新・生存権裁判」についての研究 ― 原告団・支援団体の形成過程を通して ―」)。本口頭発表では、福祉事務所の業務は生活保護法に規定されているが、そこには当事者組織化などは含まれておらず、こうした法の特徴が当事者活動の形成を阻んだ可能性がある、という意見をいただいた。また、裁判の経過そのものをより具体的に記述する必要性を指摘された。 口頭発表でのこれらの意見を踏まえ、研究内容を論文にまとめた(題「「新・生存権裁判」における原告団・支援団体の形成過程―ソーシャルアクションとしての「裁判」『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』第37号)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究成果に未達成の部分がある。例えば、ソーシャルアクション・社会運動などの用語の概念整理が不十分であった。特にソーシャルアクションの概念が多義化している状況があるため、精査が必要であった。 さらに、2020年2月及び3月に原告・支援者への生活史聞き取りを計画していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により中止を余儀なくされた。生活史の聞き取りについては現時点では計画の遂行に大きな問題がある。特に原告団が高齢者が多く含まれるため、対面してインタビューを行うことが難しく、さらにテレビ電話などを利用したインタビューなど代替方法を検討しているが、当事者はネット環境が整っていないことや、PCなどの設備を持っていないため実施できない状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は概念整理など理論的な枠組みの考察を中心に取り組む。特に、社会運動・社会福祉運動・市民運動・労働運動・ソーシャルアクションなど多様な語義についての定義の見直しと、ソーシャルワーク論上ではそれらがどのように位置付けられるのか、検討を深める。 また、ソーシャルアクションと日々の個別支援との関連を見据えながら、理論的枠組みを構成したい。例えば、セツルメント運動などは日常的な支援を展開しつつ、社会調査を行い社会改良を展開していた。このような過去の実践と今日のソーシャルアクション(特に「裁判アクション」)との関連を視野に入れて、事実整理を行う予定である。 生活史インタビューについては、法律家などの支援者に対してはウェブ上でも実施ができないか検討を始めている。特に新型コロナ感染症対策が進む過程で、多様なソーシャルアクションが展開している。当初はこのような状況を想定していなかったが、同時進行で進むこれらのアクションの動向も整理していきたい。 また、ソーシャルアクションの海外実践者との成果報告・交流を目的として国際学会(国際ソーシャルワーク会議)への参加を予定していたが、2020年度の国際学会は中止となった。しかし、新型コロナ感染症が拡大する中で、ソーシャルワーカーの国際的なアクションが進展し始めている。特に「Social Work Aciton Network(SWAN)」が2020年4月に国際ソーシャルワーカー連盟と協力してウェブミーティングを行い、世界中の実践者・研究者が参加した。今後もこれらへの参画を試み、国際動向を踏まえながら、我が国におけるソーシャルアクションの理論的整理とともに具体的方法論の確立を試みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費及び人件費・謝金については、国際学会への旅費が予定よりも低く抑えられたことや、年度末のインタビュー調査が中止となったことなどから当初の予定よりも、執行金額が減少した。 2020年度は、理論的整理を中心に試みる予定であるため、2019年度未使用額を資料費などの支出に当てる予定である。
|