研究課題/領域番号 |
19K13968
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
宮前 史子 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60415502)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 認知症 / 当事者 / アクションリサーチ / 自助グループ / 地域づくり |
研究実績の概要 |
今年度は、アクションリサーチの手法を用いて、本人ミーティングの開催の実行可能性と、参加者の語りやグループの変化のプロセスを検討した。本人ミーティングは大都市の高齢化した団地に開設した認知症支援の拠点で毎月1回2時間開催された。2018年度11月から先行して開催し、2020年3月までに15回開催された。開催にあたり、「認知症と診断された方」「もの忘れが心配な方」を対象とし、団地の掲示板や近隣の介護・医療機関へのダイレクトメールで周知を行った。会は本人会と家族会に分け、ファシリテーターは、本人会は若年性認知症の本人が、家族会は社会福祉士資格を持つスタッフが務めた。本人会における15回ののべ参加人数は114名(女性77名)、1回の平均参加者は7.6名だった。また、近隣、他自治体の医療機関や地域包括支援センターからの見学を受け入れた。希望する自治体にコンサルテーションを行い、会の立ち上げの支援を行った。次に、認知症の本人が回復し社会参加に至るプロセスを検討するため、参加者に半構造化面接を行った。面接は対象者を増やしつつ継続中である。本人ミーティングは回を重ねるにつれ、認知症であることを公表し、自分の体験を元に他の参加者に助言したりする参加者が現れた。その変化の理由にファシリテーターの言葉が影響したことが語られた。地域における認知症の当事者の会では、①当事者同士が②守られた場で自由に自分のことを語りあうことが、障害の受容や新たな自己像の獲得を促進させることが示唆された。また、自治体へのコンサルテーションの経験から、この手法の他地域への普及の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、研究計画について所属組織内の倫理委員会からの承認を得てスタートすることができた。参加者リクルートについては当初予定していた方法(講演会での募集)を変更したものの、参加者は平均7.6名集まる集会となり、おおむね安定的に開催することができている。データ収集は、グループの変化に関しては主として参与観察と参加者アンケートを実施している。加えて、個人内の変化のプロセスを検討するため、参加者に半構造化面接を行ない、協力者を増やして継続していく予定である。今年度の実践は、東京都認知症地域支援推進事業の「認知症と共に暮らせる社会に向けて;地域づくりの手引き(2019年度改訂版)」に寄稿した。さらに、第21回日本認知症ケア学会に「地域包括ケアシステムにおける認知症支援のための居場所の役割(3);地域拠点で開催する本人ミーティングの実践と参加者の変化」というテーマで学会発表(紙面報告)を行う予定である。また、研究フィールドの図書館・地域包括・小規模多機能型居宅介護施設と組んで、本人視点に基づいた図書館職員の認知症対応力向上研修を企画している。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目は、引き続き本人ミーティングの定期開催と共に、地域の関連組織とも連携していく予定であった。しかし、2020年3月COVID-19の世界的な流行が起こり、日本においては、4月7日に政府から緊急事態宣言が発出され、外出自粛が要請された。それに伴い、毎月1回の本人ミーティングの開催、図書館職員への研修などが中止となり、参与観察と参加者へのインタビューの実施が不可能となった。6月1日から緊急事態宣言が解除されたが、身体的距離の確保、マスクの着用、手洗いと、三密(密集・密接・密閉)状況を避ける、流行地域の移動の自粛、感染に備えた個人情報の開示要請といった「新しい生活様式」が示された。この指針は、Face to faceの集会や匿名性を尊重する本研究で実施する本人ミーティングとは真逆の方針であり、現在、運営についての方針転換を余儀なくされている。今後は、ウィズコロナ時代の本人ミーティングの方法と次の流行期間に備えるため、参加者同士または参加者とスタッフの関係を継続し続ける方法について、認知症の本人と共に議論し、実践していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では、研究参加者リクルートのための講演会の講師謝金として人件費を計上していたが、リクルート方法を変更したため、人件費分の支出がなかった。次年度は、本人ミーティングのファシリテーターの人件費として支出する予定である。
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