研究の目的である、多文化共生介護のあり方に関する概念形成に向けて、最終年度は大きく2点の研究に取り組んだ。1点目は、最終年度に至るまでの基礎研究において多文化理解の重要性が示されたこと、本研究の対象としている外国人介護職は介護施設が主となるが、インドネシアでの高齢者施設に関する実態報告は極めて少ないことを研究の背景として、インドネシア国を対象としてフィールド調査を実施した。フィールド調査で得られた知見より、EPAにおける日本側の受入要件となっているインドネシアの看護師資格に着目し、日本国内におけ先行研究、統計資料等を中心にインドネシアの人口動態、現在に至るまでの海外移住労働、保険医療制度、看護人材教育や資格制度の変遷を辿った。さらに、来日後に関連する福祉制度や高齢者福祉の現状についてはフィールド調査で得られた情報もとに概観し、多文化介護実践に向けた国際比較研究に取り組んだ。2点目は、インドネシア人の介護職員を対象としてインタビュー調査を実施し質的分析に取組むことにより、介護分野における異文化適用と意識変容に関する構造を明らかにした。外国人介護職は自文化を背景として、異文化の介護実践との狭間で介護への価値観や概念を変化させながら適応を目指していることが示唆された。外国人介護職は、日本固有の概念とは異なる新たな介護への概念観を想起させていると考えられ、多文化間による介護実践における相互理解の重要性が示された。 本研究課題の成果として、自文化を背景に日本における介護実践との狭間で価値観や介護への概念、アイデンティティを変化させていることを明らかとした。外国人介護職との協働のもと質の高い介護を実践していくには、わが国における「老い」「介護」といった新たな介護観の枠組み、実践現場における介護実践のあり方について、多文化理解を念頭に改めて検討し示すことの必要性を明らかにした。
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