豆は栄養性、保存性に優れた食材であるが、貯蔵の温度や湿度によっては品質が低下する。特に高温高湿下で貯蔵された豆(以下貯蔵豆)は、いくら加熱しても軟らかくはならず、嗜好性が低下し、食用としての利用性が著しく低下する。貯蔵豆における調理性が低下するメカニズムを詳細に理解することができれば、貯蔵豆の有効的な活用方法を確立するのに有用である。研究代表者はこれまでにでんぷん性であるインゲンマメや非デンプン性の大豆など需要の高い豆類の調理後の硬さの変化に及ぼす、貯蔵の影響について、成分変化および組織変化の観点から明らかにしてきた。 本研究の成果としては①貯蔵豆の硬化(調理性の低下)の評価法および最適調理方法の設定法を考案した。乾物である豆類を食べるためには、必ず調理工程において吸水と加熱を行う必要があることから、豆の軟化を「吸水による軟化」と「加熱による軟化」に分けて速度論的解析を行い、軟化モデルの考え方を示した。②この軟化モデルを用いて品種の異なる豆類の軟化の速度定数を求め、最適調理時間の予測を可能とした。③貯蔵豆では加熱前に浸漬操作を行うとむしろ硬化しやすくなり、煮熟中の軟化が抑制されることを明らかにした。④貯蔵中の豆では子葉部分に成分変化や酵素反応が生じており、機能性にも影響を及ぼしている可能性が示唆された。⑤ムクナ豆というL-DOPAを豊富に含む特殊な豆であるムクナ豆について、貯蔵によるL-DOPA含量の変動および硬化現象の把握を行い、ムクナ豆の利用拡大を目指す上で新たな知見を得た。 これらの結果から、硬化した貯蔵豆はそのままでは食材としての利用価値が低下しているが、煮熟以外の調理・加工方法を施すことで嗜好性や機能性の改善が可能であることがわかり、貯蔵豆を有効的に活用するための有用な知見を得た。
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