研究課題/領域番号 |
19K14013
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中屋 愼 大阪府立大学, 研究推進機構, 客員研究員 (90736886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クレソン / ジフェネチルウレア / 脂質メディエーター / 可溶性エポキシヒドロラーゼ阻害 |
研究実績の概要 |
葉菜類であるクレソン(Nasturtium officinale)はフェネチルイソチオシアネート(PE-ITC)や1,3-ジフェネチルウレア(PE-UR)を含有している。申請者のこれまでの研究により,これらの成分は細胞の炎症を促進させる可溶性エポキシヒドロラーゼ(sEH)を阻害することが分かっており,クレソンの摂食による抗炎症効果が期待できる。本研究では,病態モデルマウスを用いて,クレソンの抗炎症作用に関与する機能性成分とその作用機序を解明することを目的とした研究を進めている。 高脂肪・高ショ糖食餌マウスにクレソンや,クレソン中の含量と等しいPE-ITC,PE-URをそれぞれ摂取させたところ,脂質代謝異常に対する抑制効果がみられた。さらに,血中及び肝臓においてsEHの基質となる脂質メディエーター量が増加し,生成物となる脂質メディエーター量が減少していたことから,摂取したクレソンやPE-ITC,PE-URが体内でsEH阻害活性を示したことが分かった。これはクレソンやそこに含有される機能性成分の摂取により抗炎症効果が得られることを示唆する。 PE-ITCなどのイソチオシアネート類が示す抗炎症効果に関する学術研究は多く,今回得られた結果は予想通りと言えるが,PE-ITCより含量が低いPE-URがPE-ITCと同程度の抗炎症作用を示したことは驚きである。本研究の成果は,クレソンの摂取により抗炎症効果が期待できるだけでなく,その科学的根拠にPE-URという新たな機能性成分を提示するものである。次年度は,動物実験の解析を進めるとともに,培養細胞系を用いてPE-ITCおよびPE-URのsEH阻害活性を評価する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高脂肪・高ショ糖食餌マウスにクレソンやPE-ITC,PE-URを摂取させたところ,脂質代謝異常に対する抑制効果がみられた。詳細に分析するため,炎症を制御する脂質メディエーターに着目し,血中及び肝臓に存在する脂質メディエーター130種について,定量分析したところ,sEHの基質となる脂質メディエーター量が増加し,生成物となる脂質メディエーター量が減少していることが分かった。sEHにより生成する脂質メディエーターは炎症亢進作用を持つため,クレソンや,そこに含まれるPE-ITC,PE-URはsEH活性を阻害することで,炎症を抑制していると考えられる。この作用はin vitroで行った実験結果と一致し,クレソンやPE-ITC,PE-URの摂取により抗炎症効果が得られることを示唆する。 また,マウス体内において,食餌から摂取したPE-ITCとPE-URは同様にsheを阻害することにより抗炎症作用を示すが,腸内細菌叢に与える影響に違いがあることが分かった。腸内細菌叢は炎症性腸疾患との関連が指摘されていることから,現在,PE-ITCやPE-URがもたらす細菌叢の変化をより詳細に調べている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に実施した研究から,クレソンやPE-ITC,PE-URを摂取させたマウスの体内では,脂質メディエーター存在量が変動し,炎症を抑制するよう変化することが分かった。このように個体レベルでの抗炎症効果が確認できたため,今年度は組織レベルでの抗炎症効果を調べる。具体的には,小腸における腸管膜透過性および抗炎症効果評価のための組織モデルを用いた評価を行う。クレソンに含まれる抗炎症作用の機能性分子と予想しているPE-ITC,PE-URについて,ヒト腸管上皮様細胞株Caco-IIを用いた腸管膜透過性試験を行い評価する。また,炎症状態を培養細胞で再現させた組織モデルを用いて,クレソン,PE-ITC,およびPE-URの抗炎症効果を評価する。培養細胞にはCaco-II細胞に加えて,ヒト毛乳頭細胞,マウス毛包細胞およびラット表皮細胞などを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表を予定していた学会が新型コロナウイルス感染防止対策のため中止となり,旅費が不要となった。次年度使用額は,本研究の発表に必要な旅費として使用する。
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