研究課題
本研究は、食欲制御に関与する新たなメカニズム解明を概日時計と腸内細菌叢の観点から行うことを目的としている。先行研究により、腸内細菌叢が活性化することで生成されるSCFA(短鎖脂肪酸)の一つである酢酸の血中濃度が上昇することで食欲が抑制されることや、食欲が概日時計に制御されており日内変動を示すことなどが報告されている。食欲制御に関与している概日時計と腸内細菌叢はお互いに相互作用しており、宿主の概日時計の影響を受けて腸内細菌叢の構成やSCFA量が日内変動することや、腸内細菌が減少することで宿主の末梢時計などの概日リズム性が低下することが報告されている。以上のような報告はあるものの、実際に腸内菌叢改善作用を有する食品を用いて腸内環境改善を介した食欲抑制効果の報告はほとんど無い。そこで、1年目である2019年度は腸内菌叢改善作用を有する食品素材である難消化性デキストリン(RM)を高脂肪食(HFD)に添加して使用することで、長期的なRM摂取により食欲抑制が生じるか(実験1)、また長期的なRM摂取により腸内環境が改善しているか(実験2)について調べることとした。本実験はマウスを用いて行い、HFDを給餌する対照群とHFDにRMを添加したRM群の2群を準備して実験を行った。実験1では、各餌を8週間給餌し、その間の摂食量や体重の測定、および給餌開始後2週、4週、8週目に盲腸内pHの測定や盲腸内容物の採取をに行った。その結果、RM群の盲腸内pHは対照群と比較して4週目以降低下している(腸内細菌叢が活性化することでSCFAが生成され、pHが低下したと考えられる)ことが確認された。また、実験2では実験1で採取した盲腸内容物を用いてSCFA量の測定を行なったが、まだ結果がまとまっていない。以上のことから、RMの長期摂取により腸内環境の改善を通して食欲が制御されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載した実験に則り、行えているため。
2020年度は、主に以下の3つの実験を行う予定である。実験1としては、各給餌条件で飼育後2週、4週、8週の盲腸内容物および糞便を用いてSCFA量の測定と腸内細菌叢の解析を行う。実験2としては、4週以上RM食を給餌したマウスから糞便を採取し、腸管内容物を洗浄流去処置したマウスに経口投与することで、HFDの摂食量や活動期・非活動期の摂食量の割合の変化、行動リズムの測定などを行う。少数のマウスを用いた予備実験により、糞便を投与されたマウスの摂食量の低下や摂食リズム性の回復が確認されている。実験3では、実験2と同様の実験を概日時計機能不全マウス(Clock⊿19 mutantマウス)や抗生物質水により腸内細菌がほとんど存在しないマウスに行うことで、食欲制御に概日時計や腸内細菌叢の有無が関与しているかについて検証を行う。以上の実験を行うことで、食欲制御機構の新たな経路の示唆を行う予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件)
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