本研究では「無届け老人ホーム」を社会ニーズに対する民間の自発的な応答と捉え、「住宅」と「施設」の境界領域に存在する単身高齢者の住まいの実態から、そのあり方を物理的環境 (面積、消防設備等)と人的環境(居住者相互の関係、運営者・支援提供者との関係)および制度設計(介護保険法、賃貸借契約等)の観点から検討し、新たな枠組みを提案することを目的として調査を進めた。その結果、指導指針への適合を画一的に求めない厚生労働省の指導指針と反し、各行政庁単位での指導状況をみると、一律基準への適応を求め、柔軟性を欠く現状があきらかになった。具体的には、食事の提供や確認の方法など、一方的に支援を提供するスタイルしか許容しないものであった。居住者同士の相互扶助を想定せず、居住者のプライバシーへの配慮に欠く側面が見られた。 同時に、「無届け老人ホーム」の運営者、居住者自身も希求する「自由な暮らし」には、一定の居住限界が存在していることを認識していることを、これを質的調査により確認した。居住限界は必ずしも認知症の発症とは限らず、居住者相互の些細な配慮にて居住継続が可能になっており、居住者同志の関係性により延長されることが明らかになった。 これらの結果を踏まえ、一律な「老人ホーム」の制度として、庇護するべき対象として居住者を捉え運用し、一方でそこに馴染まない住まいを「無届け」と扱うのではなく、多様な高齢者の住まいとしての「老人ホーム」およびその周辺について、居住者の能力や権利を段階的にあるいは幅があるものとして位置付け、制度設計につなげていくことが求められる。
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