研究実績の概要 |
食品製造環境等ではListeria monocytogenesのバイオフィルム形成による食品汚染を介したヒト健康危害が問題視されており、本菌の環境適応に係る分子基盤の解明が求められている。本研究では、L. monocytogenesの集団細胞間コミュニケーションを標的とした当該形質の制御を目指し、バイオフィルム形成に係るゆらぎに基づく環境適応機構の分子基盤への理解を深めるため、バイオフィルム形成段階に顕す細胞形質に基づいた亜集団別分類を通じて細胞構造学的及び分子代謝学的観点からその形質特性を明らかにする。 前年度までの研究により、血清型1/2aのL. monocytogenes菌株のバイオフィルム形成細胞では細胞の形態によるバラつきが認められると共に、このゆらぎが細胞表層構造に伴う付着強度の変動に依存する可能性が示唆された。その一要因として、菌体脂肪酸組成の変動が細胞表面特性に影響を及ぼしている可能性が示唆され、付着強度別のバイオフィルム形成細胞間では菌体脂肪酸組成に加え、さらに細胞表面のroughnessにも差異が認められることが明らかとなった。 本年度は、菌体脂肪酸組成の変化より、付着強度に影響を及ぼしているであろう因子の検討を試みた。付着強度別ではC14:0およびC17:0において有意差が認められたことから、これらに関連する遺伝子の影響が推測された。また、C14:0およびC17:0の中でも、特にisoやヒドロキシ酸修飾されたものが多くなる傾向が認められた。C14:0のKEGG Pathway解析を行った結果、FabF, FabG, FabZ, FabI, FabK, FabL等の遺伝子の関与が推測され、一部遺伝子については既知の遺伝子配列よりプライマーを作製してRT-PCRに供したところ、付着強度が強いほど遺伝子発現量は少なくなる傾向が認められた。
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