本研究では、公民館運営における「自治」の公式・非公式の仕組みに関する自治体の実態と、その仕組みの下での「自治」と学習の関連を調査し、社会教育活動の中で生成する学習の特質と、それを可能にする制度について探究してきた。 ここまでフィールドワークとして、公民館およびその所管部署の再編を進めてきた兵庫県尼崎市を中心とした調査を行ってきた。尼崎市では当時の稲村市長施政下(2010年より3期)に、社会教育部門と公民館、地域コミュニティ施設と地域自治政策部門の再編を全庁的に進めてきた。その中で公民館分館の廃止、地域自治組織との融合・協働を狙った市役所組織の再編を実施し、「生涯学習プラザ」という新たな社会教育・生涯学習・地域コミュニティ施設を新設した。各地区の当該施設を拠点としつつ、市民によるボランタリーな活動を積極的に支援しながら、「自治」を醸成する持続可能な学習環境の実現を模索している。 新型コロナウィルス感染拡大の時期には、対面での活動が制限・休止される中で「オンライン公民館」の実践が立ち上がる様子も参与観察できた。社会教育における「オンライン」(デジタル空間とオンラインツールの活用)のインパクトについては2019年当初の計画にはない視点であったが、自治を支える民主主義の理念と文化を醸成する「社会的」な学習・教育に関する洞察を深めることができた。 最終年度はこれまでの研究成果の総括を行うことが中心となった。今後の課題として、既存の実践を調査分析するのみならず、日本国内の社会教育活動の更なる展開と可能性を見据え、社会実装に取り組む重要性を認識するに至っている。今後は社会実験的に変革的な生涯学習実践に取り組み、どのような組織化やシステムの下に自治的でインクルーシブな学習環境が実現し得るのか、その実現を阻害する要因は何か等について、一層の探究を深めていく必要があると考えている。
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