研究課題/領域番号 |
19K14058
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小木曽 由佳 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (50829174)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多元性 / 心理学的類型論 / 自己実現論 / 個別性 / タイプ |
研究実績の概要 |
本研究は,「多元性(plurality)」という観点から,差異を持った個体同士が関係しあうことが持ちうる創造的な意味について,臨床教育学的観点から理論的・質的に検討することを目的とするものである。 本研究では,心理療法における治療関係を人間関係一般の雛形として捉え,次の2つのアプローチ,a) 心理学的類型論の形で, 人間存在の「多元性」を分析した思想家の理論の比較検討,b) 治療関係における対称性をめぐる検討,を通して考察を行っている。 1年次である本年度は、a)心理学的類型論の検討を中心に考察を進めた。特にユング(Jung, Carl Gustav)の心理学的類型論に注目し,その一環として,ユングが自らの類型論の体系を構築した直後に行った講義の記録『分析心理学セミナー1925──ユング心理学のはじまり』(創元社, 2019, 共訳)に携わった。また,自分自身の「個別性」の認識と関連して,人生後半について扱ったユングの発達論・自己実現論にも取り組んだ。この成果は,『ワークで学ぶ発達と教育の心理学』(ナカニシヤ出版,2020刊行予定,共著)において,「「発達」の先には何があるか?──人生の午後と自己実現をめぐって」のタイトルで執筆したほか,6月に関東のIT企業のオープンセミナーにて講演を行った。そのほか,日本人特有の死生観をユング心理学の観点から論じた論文"A Duality of Japanese 'Fish' Symbol: Standing at the edge of Life and Death"を執筆し,2020年8月にRoutledge社より刊行予定のJungian Perspectives on Indeterminate States: Betwixt and Between Bordersに収録される。 b)との関連で,各種教育プログラムの視察も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ年度始めの計画通りに進んでいる。当初の予定通り、1年次である本年度は、心理学的類型論の理論的検討を中心に考察を進め、論文や翻訳の作業を進めたほか、治療関係の対称性に関して考察を深めるため、関連する教育プログラムの視察や、所属機関におけるウェルビーイングに関する情報発信のプロジェクトにも積極的に携わった。 予期していなかった点としては、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、年度末に計画していたいくつかの出張がキャンセルとなったことが挙げられる。当初予定していた直接のインタビューは断念せざるをえなかったが、遠隔での聴き取りや、2年次以降への延期を通してリカバーすることが可能であるため、それらについては2年次以降の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
2年次以降は,本年度重点的に扱ったユング以外の思想家・心理学者が取り組んできた気質論・心理学的類型論(ユング心理学のの応用として1962年に米国で開発されたMBTI(Myers-Briggs Type Indicator),そしてスイスの思想家ルド ルフ・シュタイナー(Steiner, Rudolf)が論じた四気質論など)を取り上げて比較検討を行い,多元的な人間個体の「個別性」を 深く考察する方途を探求する予定である。 また、治療関係における対称性をめぐる検討も進める。本研究では,人間関係の雛形としての治療関係に着目するが,一見したところ, そこにはセラピストの専門性が介在するがゆえ,心理学の専門的な知識を持つセラピストと持たざるクライエントとの間の絶対的な”非対称性 ”が存在する。治療という観点では自明の前提ではあるが,本研究が注目するのは,「転移」の相互性に関する議論である。とりわけ欧米の一部の実践ではすでに重要性が指摘されている「レイセラピスト(lay therapist)」の援助行為を取り上げ,他者の成長に対して,自分自身に対する認識や自分自身の成長が与える影響について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、当初購入予定であったパソコンなどの物品が発売のタイミングと合致しなかったため、未使用のままとなった。旅費については、体調不良および新型コロナウイルス感染拡大の影響で、いくつかの出張がキャンセルになったことで当初予定していた金額を使用することができなかった。 2年次には、予定していた物品を購入したり、学会出張用の旅費として計上していた金額を、遠隔での会議出席に必要な機器の購入等に充てたりするなどして使用する予定である。
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