研究課題/領域番号 |
19K14058
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小木曽 由佳 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (50829174)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多元性 / 対称性 / 心理学的類型 / 神経症 / 気質 / 教育関係 |
研究実績の概要 |
本研究は,「多元性(plurality)」という観点から,差異を持った個体同士が関係しあうことが持ちうる創造的な意味について,臨床教育学的観点から理論的・ 質的に検討することを目的とするものである。 本研究では,次の2つのアプローチ,a) 心理学的類型論の形で, 人間存在の「多元性」を分析した思想家の理論の比較検討,b) 治療関係における対称性をめぐる検討,を通して考察を行っている。 3年次である本年度は、a)b)両方の課題について考察を進めた。a)では,心理学者ユングの神経症理論の発生と特徴について論じたW. ギーゲリッヒ『ユングの神経症概念』の翻訳に携わった。また,論文「魚シンボルの二重性に関する分析心理学的考察──わが国におけるなまぐさの思想と『夢応の鯉魚』をめぐって」を執筆し,査読を経て『ユング心理学と生命循環』(2022年4月)に収録された。 その他,4つの気質論を含む独自の発達理論に基づいて教育学を展開した思想家,シュタイナーの教育方法について論じたM. ユーネマン『黒板絵──シュタイナー・メソッド』を翻訳出版した。 b)については,哲学者M. ブーバーが人間の最も根本的な人間関係の一つとして治療関係に並んで挙げている,教育における教師と生徒の関係にとりわけ着目した。いくつかのオルタナティブな教育実践(シュタイナー学校,サドベリースクール,学校法人きのくに子どもの村学園,伊那市立伊那小学校)では,一般的な教育観とは一線を画し,児童生徒の存在や意志の力を教師が深く尊重するという,従来の非対称的な教育関係とは異なる関係性をベースにしている。そこで,各実践の教師にインタビュー調査を行い,その実践が教師の視点からどのように捉えられているかを聞く中で,比較考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究内容については,ほぼ年度始めの計画通りに進んでいる。当初の予定通り,3年次である本年度は,心理学的類型論の理論的検討と人間関係の対称性/非対称性に関する考察を中心に考察を進め,論文や翻訳の作業を進めたほか,所属機関におけるウェルビーイングに関する情報発信のプロジェクトにも積極的に携わった。 一方で,新型コロナウイルス感染拡大の影響で,関連する教育プログラムの視察, 直接のインタビューにまつわるいくつかの出張をキャンセルせざるをえなかった。それらについては,次年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,研究課題の完成に向けて,3年次に続き,a) 心理学的類型論の形で, 人間存在の「多元性」を分析した思想家の理論の比較検討,b) 治療関係における対称性をめぐる検討の両課題を遂行する。まず,オルタナティブな教育実践の調査を継続し,教師へのインタビュー調査と,学校に赴いての現地調査(横浜シュタイナー学園,三河サドベリースクール,伊那市立伊那小学校,北九州子どもの村小・中学校)を行う。また,これまで行なってきた心理学的類型論の比較検討を実践の中で検証しつつ,その成果を論文の形にまとめるほか,大学生を対象に数年にかけて収集してきた,自己表現の手段としてのコラージュ作品の分析を共同で行い,学会誌『トランスパーソナル心理学・精神医学』に論文として投稿する予定である。以上を通して,多元的人間観に基づく関係論の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で,関連する教育プログラムの視察, 直接のインタビューにまつわるいくつかの出張をキャンセルせざるをえなかった。次年度以降,当初予定していた出張計画,インタビューの設計を見直し、遠隔システムの充実を図ることによって,オンライン上で研究計画を進 められるよう,準備を進めているほか,可能である場所には出張して現地取材を履行する。
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