研究の目的は、溝上泰子の生活論と教育論に着目して、自己実現に資する社会参画や人間関係の指導の在り方を構造的に把握するとともに、それに基づいた指導の在り方を明らかにすることである。 前年度までに明らかになったことは、①貧困地域での組合活動や家庭運営を行いながら自己を見つめることを、「場に座を立てる」=自己実現として把握されていたこと、②その過程をより鮮明に捉えるために、「主体」概念と「当事者」概念の比較検討を実施し、その結果、「当事者になる」ことに着目することが、(ア)「当事者になる」という自己決定以前の周囲との関係性、(イ)「当事者になる」/「当事者になることをやめる」という自己決定の両側面、(ウ)自己決定の契機をもたらす関係性などに焦点を当てることにつながることが示唆された。 最終年度は、溝上泰子の主体概念の整理である。その結果、溝上の教育論には「本質論的な主体概念」と「未来の軸にある未到達の主体概念」の2種の主体概念の表出傾向があることが明らかとなった。後者は禅哲学の影響下にあることが予想されるものであり、過去からは断絶されたものであり、現在においても離れた距離にあるものと示唆されている。またその瞬間瞬間の生き方によって到達できたり消失したりすることも示唆されている。 そして本研究結果をもって「未来の軸にある未到達の主体概念」に基づいた学びの場をつくろうとした溝上の生活論/教育論を研究することが、「当事者になる」自己決定を促す関係性の研究に有用であったことを示した。
|