本研究は、校訓が教育勅語を相対化して自校教育の中に位置づける機能を持つことを明らかにすることを目的としている。研究課題は次の4つである。各学校における校訓制定に関する資料を収集・分析し〈課題Ⅰ〉、明治期の勅語・詔書および校訓に関する政府と世論の動向を解明する〈課題Ⅱ〉、以上の成果に基づいて、自校教育における教育勅語の位置づけをどのようなレトリックで相対化していったかを明らかにする〈課題Ⅲ〉。各学校の事例をもとに分析を行い、相対化レトリックのモデルを示す〈課題Ⅳ〉。 課題Ⅰ、Ⅱの資料収集及び分析の成果を、2019年の教育史学会第63回大会で発表した。当該発表では、明治期の校訓調査の概要を報告し明治40年代の校訓の動向を確認した上で、校訓関連資料に着目。自校教育と詔勅をどのようなレトリックで結び付けていったかを、複数の事例を取り上げ論じた。課題Ⅲ、Ⅳへのアプローチとして、明治期の校訓調査を分析し、校訓制定における共通のレトリック「勅語の御趣旨」に着目。「勅語の御趣旨」が各学校によって校訓化され、様々な徳目・文章として表現されている、という仮説を立てた。この仮説をもとに、「勅語の御趣旨」を校訓化する解釈項として、ヘルバルト派教育学説に着目し、明治期の修身教授法の「勅語の御趣旨」に関する記述を分析した。明治期の特にヘルバルト派教育学説の流れを汲む修身教授法書においては、「小学校教則大綱」「小学校令施行規則」中の「近易」の文言を柔軟に解釈することによって、「勅語ノ旨趣」に示された諸徳目に対しても相対化するような立場を取ることが可能になっていた。それを可能にする背景としてヘルバルト派教育学説、特に「興味」の概念が解釈上大きな役割を持っていることを指摘した。この研究成果を2021年の教育史学会(第65回大会)で発表した。最終年度は上記の研究成果を論考としてまとめた。
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