公教育と私教育を架橋するシティズンシップ教育モデルの構築を課題とした2021年度の研究の成果は3点ある。 第一に、「熟議民主主義的市民形成論における私的領域の位置」と題する学会発表を行った(於:教育哲学会第64回大会)。本発表では、私的領域での教育のあり方をめぐるリベラリズムの原理論(主としてD. アーチャード、およびH. ブリッグハウス&A. スウィフトの家族論)の新たな理論動向の特徴を明らかにした。また、ブリッグハウスらの論を、フェミニズムが近年提示する関係的自律性概念に依拠して再評価し、教育目的としての関係的自律性論に、私的領域を包含するシティズンシップ教育論の可能性を見出した。 第二に、単著論文「教育目的論の現代的動向とフェミニズム思想の位置」(教育思想史学会『近代教育フォーラム』第30号)を公表した。本論文では、現代の規範的教育哲学上に、政治・社会・経済の観点から時代状況に応じた価値判断を求める教育目的論と、教育固有の価値論から教育目的が内包する偏向性への自覚を促す論が存在すること、また、後者に位置づくフェミニズムの教育目的論が、規準性をもった教育目的論それ自体に暴力性が内包されていることへの自覚を促し、社会像との関係の中で教育目的の徹底的な吟味を求めていることを明らかにした。 第三に、「熟議民主主義の実質化におけるテクノロジーの位置」と題する単独発表を行った(於:筑波大学人文社会系主催シンポジウム「科学技術と法学がもたらす熟議民主主義の実現」)。熟議システム論の進展に伴う熟議の場の拡張実践が、熟議民主主義理念をどれだけ具現化できるのかを考察し、オンライン・コミュニケーション・テクノロジーが熟議に必要とされる力(他者の意見に耳を傾け、公共的視点から全体意思を考慮する力)の発現を下支えできるか、また、シティズンシップ教育といかに連携できるかの検討の必要性を提示した。
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