研究課題/領域番号 |
19K14087
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
田中 怜 筑波大学, 人間系, 特任研究員 (30835492)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 多視点的授業 / ドイツ教授学 / 教材開発 / カリキュラム開発 / 授業実践 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会の複雑性や偶発性を授業において「演出」することで、学習者に対して学習内容への複眼的な接近を可能とさせる多視点的授業(Mehrperspektivischer Unterricht)の教授学的な原理と授業方法論を明らかにすることにある。多視点的授業とは、1970年代の西ドイツ、特にバーデン・ヴュルテンベルク州において、事象科(Sachunterricht)のために開発された授業構想、教材、教具、そして実践の総称である。 この目的を達成するために本研究は3年の研究計画で遂行される予定である。研究計画の初年度にあたる2019年度には、多視点的授業に関係する一次資料の収集、収集した資料の分析、そして分析した成果の一部の公表を行った。 2019年度の国内外における資料収集調査を通して、①多視点的授業の開発に携わったCIELロイトリンゲンワーキンググループによる教師用指導書、②それに付属するワークブックと資料集、③多視点的授業の構想を基にして作成された教科書『私たちの新しい世界』、④教科書に付属してるワークブック・教師用指導書・解説書、そして⑤その他多視点的授業に関係する諸論文の収集を行うことができた。しかしいまだ未入手の文献がドイツ国内に僅かに残されているため、それらの収集は今後の課題となっている。 なお資料収集と並んで、2020年2月にはドイツのギーセンにて、元ギーセン大学のルードヴィッヒ・ドゥンカー教授(Prof. Ludwig Duncker)に対して長時間のインタビューを行うことができた。 こうして収集した資料を分析し、その一部を発表した。具体的には9月に日本教育方法学会にて多視点的授業に関する研究発表を行った。また2020年3月には、カザフスタン、ロシア、ウズベキスタンとの国際教育セミナーにて多視点的授業の教材に関する英語での口頭発表を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年にわたる研究の初年度にあたる2019年度には、多視点的授業に関する国内外の資料の収集が主たる目的として据えられていた。 1年にわたる国内の調査を通して、現在日本に存在する多視点的授業に関する一次資料をほぼすべて収集することができた。また日本国内には存在しない文献については、2020年2月にドイツに渡航し、ライプツィヒ、ベルリン、そしてギーセンでの調査を行うことで収集を試みた。具体的には、ライプツィヒにてライプツィヒ大学でのシンポジウム参加・研究発表とドイツ国立図書館での資料収集を予定しており、またベルリンでは多視点的授業に関する資料の所蔵数ではドイツ国内でも群を抜いて多いベルリン自由大学図書館の訪問を計画しており、またギーセンでは多視点的授業の教材開発とその後の理論的発展を牽引したドゥンカー教授へのインタビューを予定していた。 結果として、ライプツィヒ大学でのシンポジウムは新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中止になってしまったものの、その他の計画については予定通り遂行することができた。 また、ギーセンでのドゥンカー教授に対する3時間以上にわたるインタビューの結果、多視点的授業に関する貴重な一次証言を得ることができたとともに、大学図書館や書店では取り扱っていない多視点的授業の教具の提供を受けた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の2年目にあたる2020年度には、当初の計画では引き続き国内外で資料収集とインタビュー調査を行うことが計画されていた。しかし新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、現時点ではドイツへの渡航はもちろんのこと、ドイツ国内の図書館から資料を取り寄せることのできる見通しが全く立っていない。そのため、未入手の資料については収集調査をしばらく見合わせる必要がある。 しかし2019年度に収集した資料を分析することや、分析の結果に基づく論文執筆は十分に可能な状況にある。そのため2020年度は資料収集よりも収集済みの資料の分析と成果の公表を積極的に行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由の第一は、計上していた調査用のPCを購入することができなかったことによるものである。新型コロナウイルス感染症拡大の影響でパソコン機器の流通が不透明ではあるが、2020年度中に購入することを検討している。また理由の第二は、当初購入を予定していた文献の一部をスキャンとコピーで代替することができたためである。特にドイツ国立図書館では資料をスキャンしてUSBスティックに保存可能であったため、図書の購入経費よりも安価になった。これらの助成金は2020年度以降、図書の購入費などに充てていきたいと考えている。
|