本研究は、「活用」型の授業モデルを克服するために、西ドイツにおいて取り組まれた「多視点的授業」に着目し、特にそれが試みた授業における複雑性の演出方法を解明することを目的としていた。 2021年度は本研究の最終年度にあたるため、3年間の文献調査とドイツでの実地調査を踏まえた研究成果の公表を中心に遂行した。その具体的な活動は以下の3点に集約することができる。第一に、6月に日本カリキュラム学会第32回大会で、11月には関東教育学会第69回大会でそれぞれ学会発表を行うことで、3年間の研究の総括と今後の研究の見通しを示した。第二に、『カリキュラム研究 第31号』(日本カリキュラム学会)に計1本の論文と『育英大学教育学部紀要 第4号』(育英大学教育学部)に計2本の論文、合計3本の論文を投稿・掲載することで、3年間の研究成果を学術誌に公表した。そして第三に、2022年2月に春風社より単著『学校と生活を接続する』を刊行し、本研究の成果の一部を盛り込むことができた。 これら一連の研究成果の公表を通して、本研究は西ドイツにおける「多視点的授業」の授業づくりや教材づくりの理論的基礎と具体的実践事例を解明することに成功した。特に、それが「演劇」のメタファーを授業づくりの根幹に据えることにより、現実の複雑性を授業行為や教材の中に「劇作品」というかたちで「再提示」することを基本的な特徴としていることを、当時の資料を用いて実証することができた。こうした演劇的なメタファーに支えられた「多視点的授業」は、授業の中に再提示される現実の人為性や作為性を強調するがゆえに、現実の複雑性を多様な諸側面から子どもたちに指し示すことが可能になる。本研究はこうした知見をいわゆる「活用」志向の授業と対置させることで、近年流行している能力主義やコンピテンシー志向の授業に対する授業づくりのオルタナティブを呈示するに至った。
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