研究課題/領域番号 |
19K14089
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
市川 秀之 千葉大学, 教育学部, 准教授 (70733228)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | クリティカル・ペダゴジー / 動員 / ラディカル・デモクラシー / 精神分析 |
研究実績の概要 |
2019年度は、動員概念によるクリティカル・ペダゴジーのとらえ直しを目的として、2つの事柄に取り組んだ。メインで行ったのは、代表的な論者であるヘンリー・ジルーの理論の系譜学的な考察である。具体的には、ポストモダニズムの諸思想を受容したジルーが、左派のプロジェクトとしてアメリカという国家の徹底した民主化を主張する際に、何を基盤としているのかを探究した。その結果、ジルーが公民権運動をはじめとするアメリカの歴史の記憶に依拠しながら民主主義を主張していること、またその記憶を教育の中に取り入れることで特定の規範への動員を行おうとしていることを明らかにした。さらに課題として、資本主義との向き合い方、およびアメリカにおける反知性主義への応答を指摘した。本成果は日本教育学会で発表した。また、その内容の一部を組み込んだ論文を2020年に学会投稿する予定である。 上記作業から派生して行ったのが、歴史の記憶としての進歩主義教育、とりわけジョン・デューイの思想とクリティカル・ペダゴジーとの連関の探究である。具体的には、ジルー、あるいはクリティカル・ペダゴジーの源流に位置するパウロ・フレイレとデューイ思想とを関連づけようとする文献を読解した。現時点では、デューイ思想とクリティカル・ペダゴジーの双方が民主主義と教育を密接に関連付けている点を踏まえた上で、前者の諸概念を後者に組み込もうとする傾向の存在を確認している。この取り組みは、2020年度も継続する予定である。なお、本研究を遂行する際に得たデューイ思想の知見を用いて、道徳教育に対する提言等を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パートナーの出産および育児により家庭生活に割く時間が増加し、研究時間が大幅に減少している。そのため、必要な文献は概ね入手したものの、予定していたようには読解が進んでいない。加えて、歴史の記憶としてのデューイ思想という思想史的なテーマは、研究計画書を書いている時点では予測していなかったものであるため、予想以上に時間がかかってしまった。 さらに、上記の事情のため、次年度の計画遂行に必要な精神分析に関する文献の準備的な読解が十全に進んでいるとは言い難い。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画を大きくは変えずに研究を遂行する。2020年度には、精神分析を参照に、動員としての教育における規範の伝達・受容の過程を描き出す。具体的には、ヤニス・スタヴラカキスやクラウディア・ルーテンバーグらの著作を参照に、クリティカル・ペダゴジーが享楽概念や幻想の論理によって人々にいかにして規範を欲望させるのか、人々はそれをどのように受け入れる/抵抗するのかを描き出す。2021年度には、動員の過程の不完全性とそれに根差した変革可能性を、エイジェンシー概念を手がかりに探究する。 2019年度から継続する予定のデューイ思想との関連は、本研究の思想史的基盤を整備する点、およびクリティカル・ペダゴジーにおけるエイジェンシー論を組み立てる点において重要だと考えている。そのため、上述した計画を進めながら、同時並行で2年間かけて探究を行う予定である。 上記の研究を遂行するにあたっては、2019年度と同様に、高宮正貴氏(大阪体育大学)や生澤繁樹氏(名古屋大学)らと開催している「政治と教育研究会」や日本デューイ学会等で成果を発表する予定である。また、研究協力者の山本圭氏(立命館大学)から適宜アドバイスを受ける。
|