研究課題/領域番号 |
19K14089
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
市川 秀之 千葉大学, 教育学部, 准教授 (70733228)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クリティカル・ペダゴジー / 動員 / 精神分析 / エイジェンシー |
研究実績の概要 |
2020年度に取り組んだことは、主として二つある。一つ目は、前年度に十分に進めることができなかった、ラディカル・デモクラシー論と動員としての教育との関連の探究である。二つ目は、当初の研究計画で2020年度に取り組む予定であった、精神分析の文献の読解である。 一つ目については、当初の計画で予定されていた方向性を修正し、ヘンリー・ジルーの論を再読することで研究を進めることを試みた。具体的には、2019年度の研究で得られた歴史の記憶という概念と、本研究の準備段階として既に整理していたジルーによる希望概念とを組み合わせて再解釈するという作業、および彼の希望概念を系譜学的に追うことを通して、動員としての教育理論の大きな枠組みを描き出すという作業を遂行した。 二つ目に関しては、ヤニス・スタヴラカキスの著作(とりわけ『ラカニアン・レフト』)や山本圭『アンタゴニズムス』などの著作を読解し、ラディカル・デモクラシーと精神分析とのつながりを検討した。この作業を通して、享楽概念の重要性と、クリティカル・ペダゴジーに確固として存在する啓蒙的な要素との接続の可能性を探った。ただし、この作業については、文献の読解が十分に進んだとは言い難い状況である。とりわけ、教育学的な視点から書かれた文献の読解が不十分であると言わざるを得ない。エイジェンシーと教育との関係を解き明かす方途を明らかにするためには、さらなる探究が必要となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗が遅れている理由としては、以下の三つを挙げることができる。一つ目は、育児をはじめとする家庭の事情である。2020年4月~7月は育児短時間勤務の制度を用いて勤務をし、教育・研究・校務を最低限に抑えた。そのため、研究が遅れている。 二つ目は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う学会大会中止に伴い、発表をすることが難しくなったことである。発表を予定していた国内外の学会大会が相次いで中止となったため、コメントを得た上で研究を進めることが難しくなってしまった。 三つ目は、研究計画の修正を行ったことである。「研究実績の概要」で述べた形で計画を修正した際に、予想以上に多くの時間がかかってしまった。そのため、本来であれば2020年度に進めるべきであったことに十全に取り組むことが難しくなってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
計画の最終年度である2021年度の推進方策は、精神分析関連の文献の読解の継続である。これについては、スタヴラカキスなどの政治学と精神分析とを架橋する著作を読み進めるとともに、教育学・精神分析・民主主義の三つについて言及する諸論文にも目を通す。加えて、クリティカル・ペダゴジーにおけるエイジェンシーの位置を系譜学的に探究するため、パウロ・フレイレの論へのエーリッヒ・フロムの影響を論じたチャールズ・ビンガムの論等を読む。これらを通して、抑圧的な状況に抗するための思考や行動がいかにして可能になるのかについての過程を、教育学の立場から描き出す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に海外学会のための旅費として計上していた予算、および海外学会発表のための英文校閲料として計上していた予算を使うことができなかった。21年度も引き続き、旅費および英文校閲料として計上する。
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