本研究課題の目的は、動員の民主主義教育論としてクリティカル・ペダゴジーを描き出すことである。この目的のもと、本年度は、動員としての教育者のはたらきかけが規範の押し付けとならないための理路の探究を行った。具体的には、精神分析をクリティカル・ペダゴジーと接続させる研究を検討することで、エージェンシーと動員とを共存させるための理路を探究した。 本年度の研究を通して、以下のことを明らかにした。一つ目は、クリティカル・ペダゴジーに伏在する精神分析の系譜の存在である。クリティカル・ペダゴジーの始祖とも言えるパウロ・フレイレは、エーリッヒ・フロムやフランツ・ファノンを参照に、人々の精神状態を描いている。また、クリティカル・ペダゴジーの代表的な論者であるヘンリー・ジルーも、ヘルベルト・マルクーゼなどを参照している。 二つ目は、代表的な論者による精神分析の摂取の不徹底さである。上に挙げたフレイレやジルーの論の検討を通して、精神分析の受容がやや不徹底であり、その結果として規範の押し付けとエージェンシーの行使の疎外の可能性が論に残存していることが明らかになった。 三つ目は、受容の不徹底さの解消としての、精神分析とクリティカル・ペダゴジーの再接続である。具体的には、フレイレの論を精神分析の観点から読み直そうとする研究を取り上げ、その意義を解明すると同時に、民主主義教育論への接続方法を探った。 以上の研究の成果については学会の研究大会で発表し、論文を執筆・投稿した。
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