研究課題/領域番号 |
19K14092
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
後藤 篤 奈良教育大学, 学校教育講座, 特任講師 (60815786)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生活指導 / 昭和三陸地震 / 教育と福祉 / 生活綴方 / 教育実践史 / 教育学 |
研究実績の概要 |
本研究は、「昭和三陸地震」(昭和8年3月3日未明発生)で甚大な被害を受けた岩手県気仙郡において、困窮する地域社会とそこに生きる子どもの生活現実に働きかけようとした、小学校教師たちの教育活動(生活指導実践)に関する基礎的研究である。このような研究を通して、学校教育を通じた子どもの生存・生活保障の可能性と限界についての歴史的視座を獲得することを目的とし、3つの研究項目(行政の論理、教育の論理、生活指導実践の内実)を設定している。 初年度2019年度は、上記研究項目にもとづき以下の内容に取り組んだ。 第一に、「昭和三陸地震」後の岩手県における復興政策についての分析である。岩手県史や気仙郡の自治体史、郷土誌を参照しつつ、岩手県の統計資料や行政資料を分析していくことを通じて、県の施策と地域社会の実情の乖離を導き出すに至った。 第二に、「昭和三陸地震」前後の学校資料の分析である。岩手県立図書館および岩手大学図書館での資料調査を通じて気仙郡の学校資料の所在を一定程度確認することができた。なかでも廣田尋常高等小学校・廣田実業補習学校の学校資料を確認できたことは大きな収穫である。同資料の分析を通して現在、「昭和三陸地震」前後にみられる小学校教師たちの地域調査と教育目標設定の実態が明らかになりつつある。 第三に、気仙郡の小学校教師・柏崎栄の作成した教育記録(実践記録)の分析である。予定していた学級文集の発掘・収集に進展がみられなかったため、学校資料や統計資料を用いながら、先に助走的研究において収集してきた実践記録の分析を再度行った。その結果「昭和三陸地震」後の気仙郡では、経済的困窮のみならず、社会的紐帯の脆弱性が生活指導実践上の課題となっていたことを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にあった初年度の基礎的調査はほぼ予定通り進展している。岩手県史、気仙郡の自治体史を参照しながら岩手県の統計資料や行政資料を収集できた。また、岩手県気仙郡の小学校で1930年代に作成された学校資料群の所在を一定程度把握できたことで、初年度に予定していた行政の論理と教育の論理についての調査・研究計画は十分に達成された。しかしながら一方で、気仙郡の小学校教師たちによる学級文集の発掘・収集作業が当初計画より遅れており、生活指導実践の内実についての分析が次年度以降の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響もあり、当初の予定より遅れている学級文集の収集および整理は次年度に集中的に取り組むこととして、「昭和三陸地震」前後の廣田尋常高等小学校・廣田実業補習学校の地域調査と教育目標設定に関する分析を進めることで対応する。また初年度、本研究における歴史的視座を意識しながら、東日本大震災後に津波被災地の小学校教員が綴った実践記録分析の成果を発表した。その成果をふまえながら、災禍に直面した小学校教員たちの教育心性についても検討の視野に入れていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画には、学級文集の収集とデータ作成にあたっての謝金および人件費が含まれていたが、先方の事情もあり、収集作業が予定通り実行できなかったため、その分の経費が次年度使用額となった。使用計画として具体的には、岩手県の元小学校教員、現職教員の方々に研究協力していただく際の謝金、学級文集と統計資料のデータ作成にあたっての人件費を計画している。
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