本研究は、「昭和三陸地震」(昭和8年3月3日未明発生)で甚大な被害を受けた岩手県気仙郡において、困窮する地域社会とそこに生きる子どもの生活現実に働きかけようとした、小学校教師たちの教育活動(生活指導実践)に関する基礎的研究である。 最終年度である令和4年度の課題は、1)積極的な成果発表、2)実地調査の実施及び分析であった。1)については、本研究の成果をもとにした生活指導実践の現代的課題及び大学教育における本研究成果の活用に関する論考を発表した。2)については、現地(陸前高田市立図書館等)での郷土資料調査を行うとともに、歴史学・民俗学を専門的とする研究者の知見を提供していただき、研究期間内に収集してきた郷土資料の解読・分析を進めた。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、以下の2点である。 1点目は「昭和三陸地震」後を生きる子どもたちの生存・生活保障を目的とした、小学校教師たちの教育活動の内実を明らかにしたことである。行政資料及び郷土資料、学校資料、学級文集を用いた総合的な分析によって、困窮する地域社会の現実と、そこでの実践の意義を示すに至った。2点目は、「復興と教育」に関する歴史的視座を提示したことである。郷土資料及び学校資料の分析を進めることによって、「昭和三陸地震」からの復興の過程において小学校教師たちが、当時全国的に展開した郷土教育運動と連動しながら、教育を通じた地域社会形成を模索していたことを明らかにし、そこでの葛藤を示すに至った。 以上の研究成果は、東日本大震災後の津波被災地における「教育と福祉」「復興と教育」をめぐる取り組みを歴史的に検証していくための基盤となる。今後、岩手県三陸漁村の戦後史を視野に入れながら、上記の取り組みがいかに継承されたのか/されなかったのかを検討していくことを課題としたい。
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