研究課題/領域番号 |
19K14104
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
鵜海 未祐子 駿河台大学, 現代文化学部, 講師 (30802235)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育政策と現代の哲学 / 熟議デモクラシー / デモクラシーと平等 / 再配分と承認 / LGBTQ / GSAs / 宗教的・道徳的不一致の調整 / 子どものプライバシー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大別して2点ある。第1に、カナダ数州で先行展開中のLGBTQ権利保障をめぐる教育政策の動向に着目して、しばしば顕在化する宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題を、熟議デモクラシーの観点から原理的に解明する点である。第2に、第1の研究成果と、先行研究成果である「北米の教育判例と教育政策論争に対する『教育の政治哲学』的考察」をふまえて、「公教育と宗教」に関する政策熟議の原理の導出とその暫定的な体系化を図る点である。 背景には、カナダの数州が主導するLGBTQ教育政策の導入と実施をめぐって、宗教系公費学校や非宗教系公費学校において、宗教的ないし道徳的マイノリティと性的マイノリティとの間で緊張関係が表面化する事態がひかえている。学校教育現場におけるLGBTQに対する抑圧や差別の問題は、子どもたちや学校関係者のみならず、ひいては学校が存在する市民社会の分裂に結びつく問題でもある。 研究実施計画の初年度にあたる2019年度は、事例研究と理論研究の2本立てを進めた。まずアルバータ州におけるLGBTQに支援的な学生クラブGSAsの動向に着目し、GSAs関連法の政治的変遷や裁判や世論を再検討した。同時に、LGBTQ教育政策に関する教員養成の実態について、マニトバ教員組合主導のプロジェクトを中心に情報収集と読解作業に着手した。こうして次年度以降に計画している他州におけるGSAsの動向検討、教員養成の論文読解、学会発表、論文発表に向けた準備を進めることができた。理論研究としては、教育政策研究と現代哲学の交流のありかたに検討を加える中で、デモクラシーにおける平等原理の所在を論文発表した。その研究成果を通じて、政策熟議の原理導出に向けた基礎固めができたと言え、次年度以降に計画している熟議デモクラシーや現代リベラリズムにおけるLGBTQをめぐる議論を読み込む視点を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナの影響で、本年度の計画で大きなウェイトをしめていたカナダ海外調査は延期となったため、現地での情報収集と動向調査において遅れが出てしまった。しかし研究全体の進捗状況としては、海外調査が出来なかった分も、文献調査と論文作成にあてたため「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
文献収集・読解の裾野をさらに広げると同時に、オンライン上の交流や研究会への積極的な参加に努める中で、事例研究と理論研究の両成果を、学会発表や論文発表という形で広く公開・発信してゆく。 第1に昨年度に集中的に取り組んだアルバータ州におけるGSAsの動向検討をふまえて、オンタリオ州やマニトバ州やブリティッシュコロンビア州など他州のGSAsの動向にも視野を広げ比較考察にもってゆく。 第2にLGBTQの権利保障をめぐる教員養成や実態について、カナダの複数州を対象に分析と検討を深める。 第3に熟議デモクラシーや現代リベラリズムの理論再検討を通じて、LGBTQの教育政策研究への援用を試みる。コロナの状況を見ながら、もし可能であるようなら、昨年度に延期となった海外調査を再開し、LGBTQの権利保障をめぐる教育諸政策の実態や世論の最新動向を研究する機会を得ることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用予定額を占めていた、海外出張に関係する旅費や物品費などは、コロナの影響による海外渡航の延期により、次年度に繰り越して翌年度分と併用することとした。
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