本研究の目的は公立小中学校教員のウェルビーイング増進に必要な働き方と生活を実証的に明らかにすることにあった。本研究ではウェルビーイングを仕事・生活それぞれの満足度や健康を包括する概念として捉えてきた。最終年度は前年度に引き続き調査データの分析を行う、以下のことが明らかになった。 第1に、申請者が公立小中学校教員を対象に行った質問紙調査のデータ分析から、教員の労働時間と主観的健康ならびにプレゼンティーズム(体調不良であるものの出勤すること)の頻度の関係を検証した。その結果、労働時間が長い教員ほど頭痛を訴える頻度が高かった。また頭痛を訴える頻度が高い教員ほどプレゼンティーズムの得点が高かった。以上の分析結果を踏まえて、健康面やコンディションの良い状態で仕事に従事するという意味で、教員のウェルビーイングを増進するためには、可能な限り、労働時間を縮減することが望ましいことを考察した。 第2に、他職種との比較から教員の労働・生活・ウェルビーイングをめぐる特徴について分析したところ、まず他職種と比べて教員は長時間労働であることが明らかになった。しかし、他職種と比べて教員は仕事に対する熱意の度合いが大きく、その傾向は長時間労働の教員ほど強いことが明らかになった。以上の分析結果を踏まえると、教員の長時間労働は自身の仕事に対する思い入れの強さによって引き起こされている側面もうかがえた。 以上2つの分析結果を踏まえると、公立小中学校教員のウェルビーイング増進には、健康と仕事への熱意の双方を保持できるような労働時間が必要である。仕事の熱意を保つためにはある程度の労働時間が必要であるが、他方で労働時間が長くなりすぎると健康面や業務のパフォーマンスが低下するおそれがある。以上の点を考慮した教員の働き方や生活を保障することが、教員のウェルビーイング増進に寄与すると言える。
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