本研究課題は、信濃国高島藩領域(現長野県諏訪市域)を主たる対象に、幕末維新期における教育近代化の過程を再検証するものである。身分集団ごと個別に論じられる傾向にあった近世教育文化の変容について、包括的な視点でとらえ直すことを主たる課題としている。 最終年度となる2021年度は、小沢家文書(長野県諏訪教育会所蔵)目録のデジタル化の完了および研究成果の公表などに取り組んだ。 小沢家は、諏訪家中(高島藩士)の家柄で、幕末維新期の当主・正弘が国学者として藩校・長善館の教学運営に関わっていた。小沢家文書は全600点ほどの規模を有する史料群で、諏訪教育会に未整理の状態で保管されている。本研究では、小沢家文書の目録をデジタルデータ化するとともに、各文書を対応する番号を振った中性紙封筒に保存する作業を実施した。完成したデータは教育会に提供し、今後の研究活用に備えている。 上記の史料調査にともなう研究成果としては第一に、明治初年の地方博覧会について検討した論考をまとめた。諏訪地方を含む筑摩県では、全国的にみても盛んに博覧会が催されていた。県下各地で「開化」を価値基準とした博覧会が開かれた事実に、地域意識や地域間の序列的関係が再編成される過程を読み込んだ。第二に、教育近代化と同時並行で進められていた医療環境の変容に注目して論考をまとめた。この論点は、本研究課題の立案当初は想定していなかったものの、小沢家文書を整理するなかで浮かびあがってきたものである。医療環境は、幕末維新期に再編を迫られた地域社会の切実さが顕れる焦点として、教育と同様に注目すべきテーマと考えられた。なおこのテーマは、22年度以降の新たな研究課題として引き続き取り組んでいくこととした。
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